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一章:出逢イハ突然ニ
再会 03
しおりを挟む静かに問われ、肩がビクつく。
息が止まった。
動揺している自分が馬鹿らしかった。
昔にも似たようなことがあったな、と思い出す。
「……写真、見たのか」
「ハルが見てるとこ、何度か。ハル、泣いてた。好きだって言ったらいけない人?」
乾いた笑いと共に何とか言葉を捻り出した。
知有の双眸が榛伊を見詰めている。
彼は「馬鹿」だと姉家族から虐げられていたと言うが、決してそんなことはない。
「好きだと言ったら、異性は恋愛対象ではないと言われた。理科の先生で変な人だったよ。中学の三年間、色々なことを教えて貰った。……もう永遠に、どう足掻いても、手の届かないところにいるんだ」
言えたのは其処までだった。
実らなかった初恋が終わることなく今もまだ体内を満たしている。
榛伊は長い間、彼女の影に囚われていた。
解っていて尚、囚われたままでいいと思っているのだ。
榛伊にとって、彼女の存在が全てであり、他のものなど要らなかった。
知有にはそうなって欲しくないと勝手なことを考えている。
「ハルの、先生? そ、それって! き、ききき、き、っ、禁断の恋、だな! ……結婚しちゃったの?」
知有なりに榛伊の言葉を咀嚼し行き着いた答えは人妻になってしまったから手が届かないのだと解釈したようだった。
何故かキラキラと瞳を輝かせている。
「いや。付き合っている女性はいたが結婚はしていなかったよ。チユ、男と女が結婚するよりもずっと、男同士、女同士で結婚するのには難しいことが多い。日本では認められていないから、結婚は出来ないしな。だからと言って、自分の信念を曲げて男に嫁ぐような人でもなかったが。……チユ、遅刻するんじゃないか?」
それ以上、突っ込んで聞かれて平静を保てる自信がなく、榛伊は腕時計を見遣り知有に動くよう促した。
「そっかあ。大人の世界は難しいんだな。安ちゃんはその人のこと、知ってる?」
榛伊から身体を離し、洗面所を出て行く間際、顔だけを此方に向けられる。
「彼奴は。……そう、だな。話だけはしてあるが、安津に聞いても詳しいことは知らないぞ。中学は別だったから」
そっかあ、と残念そうに呟いて知有は消えていった。
顔を洗うのに腕時計を外し洗濯機の上に置く。
冷たい水に両の掌を差し入れた。
バシャバシャ、と冷水が溢れて零れていく。
頭を浮かんでは消えていく彼女の面影に動悸が激しくなる。
離れていかない言葉がこだましていた。
『少年はさ、俺のことなんか忘れるべきだ。可愛い子と結婚して家族作れよ。いい父親になんな。俺には無理なことを代わりにやってくれ』
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