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一章:出逢イハ突然ニ
再会 01
しおりを挟む大事に育てた甥は、
人を殺したと告げる彼に
惹かれていた。
真相を探るために再会した少年は
昔と変わらずに冷めた瞳を向けてくる――。
【再会】
朝、気怠い体を起こし寝間着のままで洗面所に向かうと、既に甥の姿があった。
歯を磨いている彼は、今年で12歳になる。
引き取った時には5歳の幼児だった。
己の世界に閉じ込もったまま出て来なかった知有は、榛伊との生活の中で、少しづつ、ゆっくりと、心を榛伊に預けるようになり、今では感情豊かに自己主張をしたりする。
それでも注意しなくてはならないのは、泣きたくても笑って誤魔化そうとする悪い癖があることだ。
迷惑になってはいけないと甘えることを我慢してしまう彼に、榛伊が出来ることと言えば、尤もらしい言葉を偉そうに語ることだけである。
泣きたい時には泣き喚け、と告げた榛伊に対して知有は行動で応えてくれた。
ちゃんと受け止めるから、と抱き締めた体躯の心許なさを今でも覚えている。
前よりは弱さを見せるようになった知有ではあっても、それでもまだ無理をすることの方が多い。
「おはよう、チユ」
口を濯ぎ終わり口元を拭いている知有に背後から声を掛けやれば、彼は振り向いて泣きそうな顔で笑った。
「お、はよ」
顔を伏せた拍子に彼の柔らかな茶の強い黒髪が揺れる。
小さな旋毛を見下ろし一つ息を吐き出した。
昨夜、榛伊に従順な知有がはじめて異を唱えたのだ。
それを気にしているのだろう甥の頭に掌を置く。
榛伊にしてみれば、遅過ぎる反抗期がやっと来てくれたか、という嬉しさの方が大きい。
確かに、倶利との接点はなるべく減らしておきたいというのも本音ではある。
それでも、彼が誰かにここまで執着するのは、榛伊を除いてははじめてのことだった。
親のエゴで子供の行動範囲を狭めるのは愚行でしかない。
自分が目を光らせておけばいい、と榛伊の中での方針はある程度決まっている。
昨日は驚きのあまり頑なになってしまい、余計に知有を悩ませてしまったのだろう。
「今日、仕事が終わったら倶利君の家に行くつもりでいる。17時ぐらいになると思うが。来るならおいで」
くしゃくしゃ、と髪を混ぜる合間に僅かに口端を持ち上げる。
愛しい甥を前にして彼を見詰める瞳は柔くなっていく。
「……いいの?」
恐る恐る顎を上げ榛伊を見上げてくる少年に頷いた。
男にしては大きな瞳が潤んでいる。
「どうせ会いに行くんだろ? それなら俺のいる時に会ってくれた方が何かと安心出来るからな。大事な話の時には席を外して貰うが、それでもいいか?」
知有の身体が、ぼふん、と飛び込んでくる。
両腕で受け止めると、ぎゅう、と胴に腕を回された。
「いつか結婚したらオレのこと要らなくなるんだって思ってた。養子にしないって言ってたから」
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