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一章:出逢イハ突然ニ
記憶の断片 06
しおりを挟むそれだけ榛伊が興奮しているのだと知れた。
「いや、だ。やだよ。オレ、オレ、は。彼奴を放っておけない。ハル、困ってる奴がいたら助けるべきだって言ったじゃん! オレは、彼奴の友達になりたいんだ! これっきりなんて、嫌だよ。生きたい癖に死ぬ真似事するんだよ? それって、どんだけ辛いこと我慢してるの? オレにはわかんないけど。だけど、もう嫌なんだ。独りで遺されるのは、つらい」
涙が溢れそうになって俯く。
榛伊の手が頭を撫で、知有の体を抱き締めてくれた。
いつもと変わらない優しい叔父は、それでも倶利のことには頑なに「駄目だ」という態度を崩さない。
「チユ。倶利君の事情とお前の過去を一緒に考えるな。彼には彼の事情がある。……俺は、お前を家族に迎えてから、父であろうとしたし、母であろうとした。至らないところが沢山あるのは解っている。それでも、保護者として、親として、チユと過ごしてきたつもりだ。榛伊という人間個人ならば、倶利君のことを反対したりはしない。ただ、チユの保護者としての立場を持つ以上は、彼と交流を持つことを良しとは出来ない。解って欲しい。倶利君が辛い想いをしているのも解る。チユが支えになりたいと考えるのも解る。それが悪いことだとは思わない。なあ、チユ。それでも俺は、お前を危険から遠ざけたいんだよ」
言葉に出来ない感情が渦巻いて知有の体内を侵していく。
榛伊にしがみ着き声を殺して泣いた。
抑えられない激情がグルグルと廻っている。
叔父でありながら彼は、知有の喪ったものに代わろうとしてくれていたのだ。
親になれないことは承知した上で、父にも母にもなろうとしてくれている。
嬉しいと胸が震えるのと同時に納得出来ない憤りにも苛まれていた。
「ど、して? 粟冠といることが、どうして危険に繋がるの?」
押し付けた榛伊の胸から顔を上げる。
胸元を掴む手が戦慄いてしまう。
榛伊は無言で首を左右させ「すまない」と一言を辛そうに溢した。
「俺の口から言えることはない。倶利君の許可もなく言っていいことではないから」
榛伊の台詞で何かしらの事件に関わっているのだと察し、それ以上は問い質せなくなる。
刑事である叔父には言えないことも多く、家族として引き際は理解しているつもりだ。
「解った。いいよ、粟冠に直接聞く」
榛伊を困らせたい訳ではない。
けれども、倶利を諦めることもしたくなかった。
肩に置かれた手を払いソファーから降りる知有に、叔父は何を言うでもなく眉間に皺を寄せて何かを考え込んでいる。
彼の口から吐息が溢れ、首が左右に振られた。
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