33 / 59
一章:出逢イハ突然ニ
出逢い 09
しおりを挟む「バカにする程の興味を君に抱いていないよ。知らない人間の名前を連呼されると気分が悪いだけだ」
ふい、と視線を逸らすと知有は安堵に破顔した。
にこにこと満面の笑みを崩さずに説明し始める。
「そっか。ならいいんだ。この年になって親離れ出来てないって言われんの嫌でさ。ハルはねえ、オレの叔父さんだよ。オレの家族、一家心中で死んじゃっただろ? それで叔父さんが引き取って育ててくれてんの」
オレの憧れ! と嬉しそうに告げる知有の腕を放し、倶利は床に溜まる血溜まりを避けて学習机に近寄った。
抽斗を開けて中から救急箱を取り出し知有に向かい掲げてみせる。
「いつも自分でやっているから君は必要ないよ。先生から預かった物を置いたら、さっさと帰ってくれ」
救急箱を見た途端に駆け寄って来そうな知有に冷たく言い放ち、救急箱を机の上に置いた。
知有は納得出来ないと倶利の横まで足音を鳴らしてやって来る。
隣に立つ彼を見下ろしもう一度「帰ってくれ」と告げた。
「君、君、君って、オレは卵の黄身じゃないんだ! 名前で呼べよ。皆オレのことチユとかチユちゃんとか呼んでるし、粟冠も」
「ボクは友達ゴッコをするつもりはない。君と馴れ合う必要性は感じないし、もう一度会うこともない。二度と来るな」
拒絶の態度を示す倶利にめげることなく声を張り上げる知有の言葉は最後まで言わせては貰えない。
途中で遮った倶利の目が知有を静かに睨んでいる。
知有の体がピクリと微動し、泣き出してしまいそうな顔を晒す。
きゅっ、と引き結んだ唇は噛み締められ、大きく開かれた瞳は潤んでいた。
「オレは! 明日も、明後日も、会いに来るから。放っておいたら、また腕、切るんだろ? オレ、見張りに来るからな! 粟冠が嫌がっても、オレは会いに来る。友達ゴッコなんかじゃなくて、ちゃんと本物の友達になりたい」
握った拳を上下に動かしながら知有は力の限り叫んでいた。
拳の動きに合わせ頭が上下に揺れ、探るように知有の必死な眼が倶利を捉える。
下から見上げてくる潤んだ双眸は瞬くこともなく、ただ倶利だけを映していた。
肩を震わせる知有を見下ろす倶利の表情に苦々しいものが浮かぶ。
「さっきも言ったけど。君がボクに家族を投影することはエゴに過ぎないだろ。ボクは自殺を選んだ君の家族ではない。自傷と自害は全く異なるものだ。勘違いするな。友達になることに一体何の意味がある? いつか壊れてしまう必要のないものならば、初めからない方がいい。帰ってくれないか? 不愉快だ」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

消えた弟
ぷりん
ミステリー
田舎で育った年の離れた兄弟2人。父親と母親と4人で仲良く暮らしていたが、ある日弟が行方不明に。しかし父親は何故か警察を嫌い頼ろうとしない。
大事な弟を探そうと、1人で孤軍奮闘していた兄はある不可思議な点に気付き始める。
果たして消えた弟はどこへ行ったのか。
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?

物言わぬ家
itti(イッチ)
ミステリー
27年目にして、自分の出自と母の家系に纏わる謎が解けた奥村祐二。あれから2年。懐かしい従妹との再会が新たなミステリーを呼び起こすとは思わなかった。従妹の美乃利の先輩が、東京で行方不明になった。先輩を探す為上京した美乃利を手伝ううちに、不可解な事件にたどり着く。
そして、それはまたもや悲しい過去に纏わる事件に繋がっていく。
「✖✖✖Sケープゴート」の奥村祐二と先輩の水野が謎を解いていく物語です。

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。

ファクト ~真実~
華ノ月
ミステリー
特別編からはお昼の12時10分に更新します。
主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。
そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。
その事件がなぜ起こったのか?
本当の「悪」は誰なのか?
そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。
こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたしますm(__)m
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる