32 / 59
一章:出逢イハ突然ニ
出逢い 08
しおりを挟む「宇津井 七は、もっと理論的だった。君は少し感情が勝ち過ぎているようだね」
七と比べる台詞を放った途端、知有の顔から感情が消えた。
倶利にはそう見えただけの話だが、顔を歪めて泣いていた表情が、スッと『無』になったのだ。
倶利でなくともそう感じたであろう。
「もういいよ。粟冠の行動原理なんか探ってもオレには何のメリットもないし。手当てすんぞ! 救急箱ある?」
だが、『無』に感じられたのも一瞬のことで、諦観した顔付きで頭(かぶり)を振った知有は、すぐにニカッと元気な笑顔を魅せた。
片腕を上げて勝手にやる気を出した知有の顔が部屋を見渡しながら探るように動き出す。
「な、に勝手に」
戸惑うのは倶利で、胸の違和感を消したいが為にした意地悪も功を為さず、それどころか余計に酷くなっている始末だった。
好き勝手に人の部屋を歩き回る知有を止めようと、カッターを床に落とし彼に腕を伸ばす。
その腕を掴むも、振り解かれてしまった。
「あのな! 粟冠の信念が粟冠を動かすことにオレが口出し出来ないように、オレの信念でオレが行動することに粟冠は口出し出来ないの! オレは怪我人を放っておくのはイヤだし、ハルだって困っている人には親切にしなさいって言ってた! オレにとってハルの言葉は絶対なんだ! こんな血塗れ野郎を放って帰ったなんて知れたら、ハルに合わせる顔がないよ。そんなの困るもん」
眉を真ん中に引き寄せ怒った顔を晒す知有の口から出て来た知らない人間の名に自然と嫌悪感を抱く。
今まで抱いたことのない未知の感情が倶利を襲う。
気付くと振り解かれた手で今度は強く知有の腕を掴み引き寄せていた。
彼の小さな体は意図も簡単に倶利の方へと引き寄せられる。
知有の目が丸く見開かれるのを見て、倶利は無意識に口角を少し上げていた。
「ボクは困っていないから親切はいらないけど。ハルって、誰?」
それでも迷惑そうに眉根を寄せて知有を凝視する。
「バカヤロー、他人の親切は有り難く受け取っておくもんだってハルが言ってたぞ! はーなーせー! オレは救急箱探すの!」
知有がワザとらしくぶーぶーと口にして唇を尖らせつつ腕をバタつかせた。
細い知有の腕を大人しくさせることは倶利にとっては簡単なことで、問いに返答を返さない少年を睨む。
「だから、誰それ?」
もう一度強い口調で問うと、知有は黙り込み俯いた。
ちらり、と上目で倶利を窺い目を細める。
「笑わない? バカにしないなら、教えてあげてもいいよ」
言いたいけど言い出せないのだと、そんな雰囲気を醸す知有に見詰められていた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

消えた弟
ぷりん
ミステリー
田舎で育った年の離れた兄弟2人。父親と母親と4人で仲良く暮らしていたが、ある日弟が行方不明に。しかし父親は何故か警察を嫌い頼ろうとしない。
大事な弟を探そうと、1人で孤軍奮闘していた兄はある不可思議な点に気付き始める。
果たして消えた弟はどこへ行ったのか。
夜の動物園の異変 ~見えない来園者~
メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。
飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。
ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた——
「そこに、"何か"がいる……。」
科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。
これは幽霊なのか、それとも——?

物言わぬ家
itti(イッチ)
ミステリー
27年目にして、自分の出自と母の家系に纏わる謎が解けた奥村祐二。あれから2年。懐かしい従妹との再会が新たなミステリーを呼び起こすとは思わなかった。従妹の美乃利の先輩が、東京で行方不明になった。先輩を探す為上京した美乃利を手伝ううちに、不可解な事件にたどり着く。
そして、それはまたもや悲しい過去に纏わる事件に繋がっていく。
「✖✖✖Sケープゴート」の奥村祐二と先輩の水野が謎を解いていく物語です。

秘められた遺志
しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。

ファクト ~真実~
華ノ月
ミステリー
特別編からはお昼の12時10分に更新します。
主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。
そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。
その事件がなぜ起こったのか?
本当の「悪」は誰なのか?
そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。
こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!
よろしくお願いいたしますm(__)m
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる