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一章:出逢イハ突然ニ
出逢い 03
しおりを挟むキッチンとダイニングを区切るようにして置かれている食器棚から、平皿を一枚取り出し、無言で京に差し出した。
受け取り際に「ありがと」と微笑んだ京に頷きだけを返し、冷蔵庫からマーガリンと林檎ジャムを取り出す。
普段は使わないのだが、つい先日、京が買ってきた逸品だった。
使わないのも気が引け、甘い物は得意でもないが、つい手に取っていた。
ダイニングに移動し、それらをテーブルの上に置き、席に着く。
「あ、そうだ。後で忠樹君が来てくれるそうよ。何でも今年は倶利のクラスの担任になったとかで、昨日だったかな、電話があったの」
ジジジー、とトースターの起動している微かな音に被せるかのように母の声が響く。
倶利はテーブルの上で手を組んだ。
俯くと木目調の模様が目に入る。
「そう。何時ぐらいになるかな?」
担任が誰になろうとも、それが喩(たと)え、歳の離れた従兄であれ、倶利には関係のないことである。
忠樹のことを嫌いなのではない。
寧ろ、彼は好きな部類に入る数少ない人間だ。
それであれ、倶利の意思は自己断罪にのみ向けられてしまう。
「そうねえ。今日も特別日課だって言っていたけど、片付けがあるとも言っていたから。夕方ぐらいじゃないかしら? ごめんなさい、聞いておけば良かったわね」
弁当を作る際に使った調理器具を流しに置く雑音が響いてくる。
「いいよ、どうせ家にいるし。洗っておくから支度しなよ」
「あら、もうこんな時間? 悪いけどお願いしても良いかしら?」
トースターが高い声でパンが焼けたと知らせてくるのを耳にして、倶利は立ち上がった。
キッチンにと赴き、蛇口に手を伸ばす京に告げる。
トースターの前に置かれている平皿に焼けたトーストを乗せてダイニングに戻った。
京も続いてダイニングにやって来て、エプロンを外している。
ばさり、と外した布が床に落ち、彼女は慌てたように支度を始めた。
「うん。他にやっておくことは?」
トーストにマーガリンを乗せ、ざっざっという音を耳に伸ばしていく。
合間に彼女へチラリと視線を投げる。
ダイニングの窓際にあるソファーの上からバッグを持ち上げて、京はキッチンに向かって行った。
「んんー、大丈夫だと思うけど、何か気付いたらやっておいてくれる?」
それだけ言いおいて、慌ただしく部屋を出て行った。
自室で化粧をするのだろう。
焼けたパンの香ばしい匂いを鼻に感じながら、溶けたマーガリンの上に林檎ジャムを乗せる。
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