CHILDREN CRIME

一章：出逢イハ突然ニ

自傷

狂ッタママ息ヲ潜メテイタ歯車ハ、
二人ノ少年ガ出逢ウコトデ、
再ビ廻リ始メターー。

モウ、誰ニモ止メラレナイ。

＊　＊　＊　＊　＊　＊


1995年、４月。


二人の少年の出逢いは、偶然か必然か。

動き出した歯車は、もう誰にも止められない――


１.出逢イト再会
【自傷】


　痛みを求めるのは、肉体か精神か。
どちらなのかは解らない。
それでも、粟冠 倶利（サツカ クリ）は自傷行為を繰り返す。
倶利にとって、既に其れ自体が日常と化していたのだ。
疑問を抱くこともなく、ひたすらに左腕へとカッターを走らせる。
馬鹿の一つ覚えかのように、傷を付けては血を流した。


　頭の中が痛みで覆い尽くされて初めて、倶利は生きていることを実感出来る。
痛みを感じない時間が苦痛でさえあった。


　自傷、即ち自己否定の瞬間だけが倶利を救ってきたのである。
他人には理解出来ないであろう境地に、長年倶利は立たされていた。




　この日も倶利の日常は変わらない。


　世間では新生活の始まる4月のこと。
12歳になる年、1995年の春だった。
倶利が六学年に在籍する小学校でも、入学式と始業式が行われていた。
午前中に始業式、午後に入学式となっている。
だが、倶利には関係のないことだった。
小学校には一度として登校していないのだ。
俗に言う「不登校」、しかも「引き籠もり」である。


　学校に行けるような状態に自分がいないことを、倶利は理解していた。
だからだろう、この陰鬱で倒錯した日常が変わることなどないと、信じていたのだ。
他の可能性など端（はな）から否定した。
寧ろ、他の生き方など、倶利の中ではあってはならないことだった。
全うな人生は、７年前に捨て去ったのだ。
自分に人生を送る資格はない、このままで良いのだと、倶利は思う。
それが彼の、倶利なりの幸せだったのである。




　人生とは難しいもので、何が起こるのか、誰にも解らない。


　この時の倶利は、まだ何も知らない。
他人の人生をも揺り動かす出逢いがあることを。
全うな道へと導いてくれる人間が、この世に存在していることを。
倶利はまだ知らなかった。
歯車は錆びたまま、まだ動いてはいないのだから知る筈もない。




罰ヲ欲スル少年ハ
自ラニ刃ヲ立テル事デ

罪ヲ償イタカッタ――。