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序章:点ト点ト、ソノ先
電話 04
しおりを挟む横目で神田を窺う。
「遠慮しておきます。それはもう、片付いているじゃないですか」
神田がだらけている時点で、彼の仕事は終わっている筈だ。
新人の榛伊とて、全ての書類を書き終わるところなのだ。
榛伊はたった今、書き終えた書類を確認し、其を手に立ち上がる。
「ったく、おめぇはよぉ。坂中、ちったぁ可愛気ある反応みせろってんだ」
片手で髪をがしがしと豪快にかき混ぜ、神田は大袈裟な程に落胆している。
その様は、悪戯を見破られた子供のようだ。
「神田、坂中君に其を求めても仕方がないでしょう? 彼の魅力は、可愛気のないところですから」
荻原のフォローなのか貶しているのか解らぬ言葉を聞きつつも、左に二つ空けた先にある神田のデスクに近寄り、彼の背後に立つ。
そして、無言で書類を差し出した。
神田は、やれやれと肩を竦めると榛伊から書類を受け取った。
「そりゃあ、魅力なのかよ? 俺にはさっぱり解らねぇがな」
「それは残念だ。神田と坂中君は相容れない関係みたいだね」
部屋の前方にある部長のデスクから何やら探し出し、荻原は扉に向かう。
榛伊は言葉を返すでもなしに、自分のデスクに戻った。
壁時計を窺えば、17時10分を示していた。
榛伊は帰る支度を始める。
「何でぇ、偉そうに。てめぇは相容れんのかよ」
詰まらなさそうに呟く神田に、荻原が微笑んだ。
優しい顔だが、何を考えているのか、榛伊には解らない。
「僕でも無理ですよ、神田。解るでしょう?」
「……解りたかぁねぇな」
神田は溜息を吐いて荻原から目を背けた。
二人にしか通じない会話だ。
良くあることだ。
二人が揃うと、世界は得体が知れなくなる。
榛伊も下を向いた。
「君達は相容れない癖して似ているね。じゃあ、僕は戻るよ」
神田と榛伊を一瞥し、荻原は苦笑を溢した。
彼は片手を挙げて、部屋から出て行く。
後に残ったのは沈黙だった。
椅子に掛けてあるコートを手に取り、其を羽織る。
手袋を嵌めた。
と、同時に電子音が鳴り響いた。
電話が鳴っている。
神田が受話器を上げた。
「もしもし、N署捜査一課です。……ああ、少々お待ち下さい」
神田と言えども、電話の対応は丁寧だ。
神田は耳から受話器を外して榛伊に差し出した。
保留ボタンは押されていない。
「萩署の埖って奴からだ。急ぎみたいだぞ」
必要最低限の説明だった。
榛伊は怪訝に思いながらも神田のデスクに足を向ける。
萩署にも、埖(ゴミ)と言う人間にも、心当たりはない。
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