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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
兄と弟 01
しおりを挟む2.飼い犬は溺愛される
【兄と弟】
さわり、と額の髪を撫でられる感覚に無平 さち(ムヒラ サチ)は身を捩る。
んんんんん、と唸り振り払おうと腕を上げた。
何故か首と腹部に圧迫感がある。
思うように動けない中で寝返りを打つ。
額から消えた温もりを、今度は頬に感じた。
つんつん、とほっぺたを突付かれている。
「ユ、キさ、んんん?」
くっついている瞼は上がりそうにない。
悪戯をしているであろう人間の名を口にすると、聞き覚えのない笑い声が聞こえてくる。
「はは、かぁわいいなあ。僕のゆっ君、奪ってる癖に天使みたい。眼福かも」
どうにかこうにか瞼を上げると、床に座り込みベッドに腕を預けている男と目が合った。
ふわり、と優し気な微笑みを浮かべる男に「おはよう、さっちゃん」と言われ、サチは口をあんぐりと開けてしまう。
真っ黒な髪には癖があり、シャープな面立ちの青年を柔らかく演出している。
丸い目を細めて男はサチの髪を撫でていく。
「だ、だだだ、誰やの? あ、あの、あの、あの、おはよう、です」
起き上がろうとして動けないことに気付き、横に顔を向ければ、萌 幸在(キザシ ユキアリ)の手足が絡み付いていた。
首には腕が、腹には足が巻き付き、身動きが取れない。
見知らぬ男に怯え、サチの震える手が幸在の胸元を握り締め、軽く押す。
「ごめんね、そんなに怯えなくても大丈夫だよ? イジメたりしないから。僕は萌 安存。其処で寝ている幸在の兄です」
萌 安存(キザシ アソン)と名乗った人物は、ふふ、と笑いサチの柔い髪を一束、指に絡ませている。
目を白黒させ、余計に怯えた顔で身を縮こませるサチは、恐る恐る口を開いた。
「あ、アソさん。あの、あに……って、なんですやろか? キリヤさんの言うてた、おさななじみ、とはちゃうのですか?」
ジッと愛らしい顔の男を見詰めると、彼の口端が持ち上がっていく。
そっかあ、と一人で納得した様子で何度も首を縦に動かしていた。
「兄弟の概念もないんだね。じゃあ、家族も解らないのかなあ?」
するり、と頬を華奢な指に辿られ、こくり、と頷く。
兄弟も家族も、一度も聞いたことのない言葉だった。
「零仁の幼馴染と、家族・兄弟は全然違うんだよ。彼奴は所詮ただの犬だからねえ。うーん、さっちゃんに解るように説明するのは難しいな。父親と母親って概念はあるの?」
困ったように微笑む安存にサチも困った顔を向ける。
眉尻を下げたサチにもう一度「そっかあ」と呟き、安存は黙り込んでしまう。
「オレ、おっちゃんとしか暮らしたことなくて。ホンマになんもわからへんのです」
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