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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
閑話:ユキさんとちょきちょき 06
しおりを挟むぴくり、と跳ねた肩が怯えを伝えてきた。
溜息を吐き出し少年はぎこちない笑みを浮かべる。
ユキさん、と名を呼んでくる青年を椅子にと座らせ、柔い髪を撫でていく。
「俺はお前を甘やかしたい。慣れろ」
「……せやけど、オレ。自分で出来るのに。ええのですやろか?」
首だけを後ろに向け幸在を見詰めてくるサチに頷きを返す。
「俺がいいって言ってるんだ。問題は何もない」
今にも泣いてしまいそうな顔の男は諦めたかのように無言で前を向いた。
矢張り、他人に洗われるのには抵抗があるのか、サチの唇は尖り、不満を表していた。
短くなった髪を濡らし、お湯を止めシャワーをホルダーにと掛ける。
掌にシャンプーを垂らし泡立て、頭皮から揉み込んでいくと、鏡に映る青年の顔は心地良さそうに綻んだ。
マッサージしながら頭髪を泡で覆い丁寧に指で梳いていく。
傷んでいる髪は通りが悪く、幸在の眉が顰められる。
「手入れして髪もツヤツヤにしないとな。撫でるなら触り心地の良い方が好みだ」
キシキシと軋む金に近い茶髪を一房掴んだ。
なんの気無しに呟く幸在に、鏡越しに不満気な眼差しを向けサチが口を開く。
「あんな、家から出る前はちゃんと綺麗にしてたんよ? お風呂、暫く入れんかったんや。オレかて好きで汚くしてたんとちゃうです」
唇を尖らせている男に薄く笑う。
胸の前で右と左の人差し指をくっつけ、くねくねと動かしている。
可愛らしい子供じみた仕草が似合う年齢は過ぎている筈なのに、不思議と違和感を感じない。
「解っているから、そう拗ねるな。……トリートメントも用意するか」
頭皮から根本までを泡で包み込むように柔く揉んでいく。
双眸を瞬かせた男は尖らせていた唇の端を上向かせ「えへへ 」と笑った。
「ユキさんの手は、おっきくて気持ちええですね。なんかようわからんけど。こそばいです」
鏡越しに見た青年は、嬉しさを噛み締めるかのように微笑んでいる。
細まった瞳が鏡に映る幸在を見詰めてくる。
上気した頬のほんのりと染まった様が少年の欲を掻き立ててしまう。
今まで味わったことのない言い知れぬ充足感が胸を満たし、それと同じだけ目の前の男を支配したくなる。
満たされているのに、何もかもが足りなかった。
乱暴に奪えば足りないモノが満たされるのか、と答えの出ない問いが頭をぐるぐると駆け巡る。
「オレ、こんなフワフワした気持ち、はじめてや。何やろな。ずっとずぅーっと、ユキさんとこうしておれたら、きっと嫌なことなんか全部忘れてしまえる気がします」
顔を上向かせた青年と直に目が合う。
思わず息を止めていた。
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