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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
春の日の、拾いもの 10
しおりを挟む触れて舐めてサチの全てを感じたい。
だが、今の彼に受け入れられるだけの余裕がないことは明らかで、ぐっ、と欲求を呑み込む。
幸在には、青年のことがとても綺麗に見えたのだ。
他人が見れば醜い傷すらも、ただ愛しかった。
愛したくて、好きだと伝えたくて、それでも言葉を奥にと押しやり、かわりにサチの額に口唇を押し当てる。
「ま、また! アカンですよ。汚いから」
自身のことを汚いと言い募る男に腹が立った。
怒ったように眉尻を上げるサチの鼻に口で触れる。
形のいい筋の通った鼻は、日本人よりも高めだ。
「汚くないと言っているだろ? サチは綺麗だよ。ずっとこうして触れていたい」
青年を柔く抱く腕が震えた。
身体が密着する程に抱き寄せてしまいたい欲を、彼の首筋に顔を埋め噛み付きたい激情を、やり過ごそうと柔らかな髪を撫でる。
「服を着よう。サチには大きいかもしれないが。風邪をひくよりはいいだろ」
誤魔化しきれず引いていかない熱から逃げるようにサチから体を離した。
バスタオルでもう一度簡単に青年と自身の体躯を拭い、洗濯物カゴに放る。
立ち上がって洗面台の隣にある縦長のチェストからスウェットを取り出し、サチに差し出した。
双眸を瞬かせて此方を見上げてくる彼の手に渡った灰色のスウェットは、生地が他のものよりも少し厚い。
暖かくはなってきたが、まだ肌寒い季節である。
「オレ、これ、着てええのですか?」
手の中の畳まれている布地を広げ、マジマジと見詰めている。
「裸でご飯を食べるつもりか? さっさと着ろ」
チェストを探り、下着を二枚と他の部屋着を用意し、下着を一枚サチの頭の上に乗せた。
パンツを頭上に乗せ幸在を見上げてくる様が何とも滑稽で笑いを誘われる。
「はい。あの、ようして頂いて、おおきに、です」
ぺこり、と下げられた青年の頭から、はらり、と下着が滑り落ちた。
ダボダボと肩の部分がズレ落ちているのは、幸在との体格差を考えれば仕方がないだろう。
あまりにも目に毒で、輪ゴムで片側を括った。
ズボンも裾を折り曲げ、ずらないようにする。
ヘアゴムがあれば髪も縛ったのだが、生憎と幸在の家にはない。
風呂場から出て自室に入った青年をローテーブルの前に座らせた。
一室しかない部屋は、ダブルサイズのベッド、学習机と本棚、クローゼット、ローテーブルがあるだけの、寝食と勉学以外の要素のない空間だ。
18歳になる高校生の部屋としては寂しいかもしれないが、幸在には十分だった。
洗面所から持ってきたドライヤーを天板に置き、自室からキッチンに向かう。
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