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一章:幸せを知らない男は死にたいらしい
春の日の、拾いもの 06
しおりを挟む思う存分に脚を綺麗にすると、タオルを一旦洗い新しくソープを足し、また泡を産出する。
掌にたっぷりの泡を取り、彼の縮こまる性器を泡で撫でていく。
「ユ、ユキ、さ、ん。ほ、ホンマに、自分で」
こそばゆいのか恥ずかしいのか、サチの太股が、もぞり、と動き、戸惑いがちに幸在の手に掌を重ねてくる。
「黙ってろ。すぐに終わる」
上目に窺った男は茶色く汚れている顔を赤くさせ、唇を尖らせている。
「せやかて、オレ。こんなん、されたことないし。自分のことは自分でできひんとアカンねん。な、なんか、いやや」
ふるり、と首を横に振り、ぎゅう、と幸在の手を掴む男に溜息を吐き出した。
「慣れろ。毎日洗われるんだ。その内、嫌じゃなくなる」
煩わしい、と彼の手を振り払い、小さく柔い陰茎を、ぎゅむ、と掌におさめる。
「変なこと言わんといて下さい。オレ、今日死ぬんやし、慣れる必要なんかないやんな。死ぬ前に綺麗にして貰えるんは嬉しいですけど」
急所を握られているのが落ち着かない様子で、上半身を左右に揺らし、両足を前後に揺らし、青年は忙しなく身体を動かしている。
踵が浴槽に当たり、こんこん、と音が響く。
「……歩道橋から飛び降りるつもりか?」
確かに、彼は今日死ぬ筈だったのだろう。
あのまま、幸在が通りかからなければ、飛び降りた先で身体を打ち付け、車体に轢かれ、それは無惨な死体の出来上がりである。
だが、運命が変わったのか、はたまた、それすらもが運命だったのか、どちらなのかは解りはしないが、青年は幸在に命を拾われたのだ。
本人に拾われた自覚はなくとも、青年が捨てた命を引き寄せ助けた時点で、彼の命は幸在のものだった。
静かに問い掛ける幸在の選択肢に、彼を死なせる未来はない。
そうとも知らないサチは、死ねると信じているのだ。
滑稽で愚かしい男が、ひどく愛おしかった。
「死に方は何でもええんです。でもオレ、どうしたら死ねるんか、ようわからんのです。あそこから落ちたら痛そうやし、ごっつ速く走ってるやつにぶつかったら死ねるんやないかと思って」
泡だらけにした股間を気が済むまで洗い泡を流す。
サチは車も知らないのだろう、「びゅーん、って」と口にしながら片腕で車を表現しようとしている。
この短い時間で、常識も世間も何も知らないのだと言うことは解ったが、20歳前後の人間がどんな生活を送ればこんなにも無知になれるのかを、幸在は知らなかった。
「そうだな、彼処から落ちて車に轢かれたら、ほぼほぼ死ぬだろうよ。荷物はどうしたんだ?」
タオルを濯ぎ水気を絞り、壁の棒に引っ掛ける。
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