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一章:君が世界の支配者だから
支配する者、される者 01
しおりを挟む1.金持ちと貧乏人
【支配する者、される者】
例えば、世界を支配する王に死刑を宣告されたなら、その人間が如何に無罪であれど、死を免れることは出来ない。
きっと、それと同じだ。
社会には絶対の支配者が存在し、その支配者に従う者がいる。
そして、社会の最下層として支配者に虐げられるだけの弱者がいた。
いつの時代でも、この仕組みは変わらない。
奴隷と呼ばれたり、えたひにんと呼ばれたり、時代や国や世情により呼称は変われど、差別化を促し、臣民の心に最下層の人間よりはマシだと言う意識を植え付ける。
社会への不満を誤魔化す役目を最下層の弱者に課して虐げる仕組みはいつの世でも同じだ。
それは現代社会でも適応される仕組みだろう。
いじめ、ハラスメント、差別、虐待、ネグレクト。
どの社会に属しても消えることのない問題だ。
人間の潜在意識にこびり付いて、どうにもならないのだ。
支配者は他者を支配しようとするものであり、支配される者はどこまでいっても支配されてしまう。
それならば、抵抗し反抗するだけ無駄なのではないか、と曲路 尚貴(スジカイ ナオタカ)は諦観してしまったのだ。
母が自分を見捨て、父以外の男と逃げてからと言うもの、尚貴の中からアイデンティティーというものが消えた。
何をしても無駄なのだと悟ってしまった。
絶望からはどうしても逃げ出せない。
父の暴力に堪えるだけ堪えて、日々アルバイトを掛け持ち、やっとの想いで生活費を稼いでも、無職の父は生活保護費を酒とギャンブルに使ってしまう。
いつ受給を打ち切られるかも解らず、尚貴の稼いだ金にすら手を付けようとする父に疲れ切ってしまった。
もう何も考えずに他者に支配されるがままに生きられたなら――痛みと苦痛にさえ堪えてしまえば――楽なのかもしれない、と思考することをやめた。
自己を打ち消し、日常を流してしまう。
最初は張り裂けそうに痛んだ胸も、慣れてしまうとただただ楽だった。
自分を無くしてしまうことで、辛いことや苦痛さえ受け流すことを覚えた。
中学を卒業してから尚貴が必死で身に付けた生きる術は、いつしか尚貴自身の性格にとなり、三年に進級する頃には、他者と交流することもなくなっていた。
尚貴にとって人間関係とは煩わしいだけのものであり、仕事と勉強以外の思考は余計なものでしかない。
なるべく自分を身軽にしたかった。
独りでいたかった。
大人が押し付けてくる友情など要らないとさえ思う。
そんな端から見て根暗でぼっちな尚貴に話し掛けてきたのが、神条院 敬聖(カンジョウイン ケイセイ)という男だった。
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