悪戯してもイイよね？

悪戯してもイイよね？

悪戯してもイイよね？ 05

その事実さえも、深黒は最近になるまで知らなかったのだ。
記憶を捏造し忘れることで安穏を得ていた裏では、参に辛い想いをさせていた。


　言葉で答えるかわりに参の唇に自身の唇を押し当てる。
真っ赤に染まる顔を両手で隠し、こくこく、と頷いた。

「や、優しい、っ、悪戯に、して下さ、い」

やっとのことで絞り出した声は震えてしまう。
参の手がバスタオルを剥ぎ取っていくのを気配で感じた。

「優しい悪戯、ってどんなのだい？」

恐る恐る手の隙間から参を窺うと、参は可笑しそうに笑っている。
その手がカチューシャを外し、忌々しそうに床に投げ捨てた。
本当はやりたくなかったのだろうな、と例年の参を思い出してしまう。

「念のために確認するけど。意味は解っているよね？　無理はしないで欲しい。ボクは君に辛い想いをさせたい訳ではないから」

真摯な問い掛けに、顔を隠したまま頷いた。
毒舌でツンツンした態度に隠している本来の参は、いつだって優しく紳士で深黒を想ってくれているのだ。

「だ、だい、じょぶ、だよ。僕も、サン君に……触れたい。嫌なことは全部、サン君が忘れさせてくれる、でしょ？」

のろのろと手を顔から外し、参の頬に添える。
くたり、と首を傾ぐと、参の顔が伏せられた。

「君は、もう少し自分の放つ言葉の威力を自覚した方がいいと思うよ。無自覚なのが腹立たしい。……我慢しなくても、いいんだね？」

少し怒った口調で告げて顔を上げた参の双眸が切なそうに細まる。
見詰めてくる彼に首肯を返した。

「サン君の好きなようにして欲しい。僕は、その、よくわからないから」

参の顔を撫でる手を掴まれ顔の横に縫い付けられる。
目に入った彼の瞳には欲情が潜んでいた。

「……ごめんよ、クロ君」

謝罪を口にする参に悲しくなり、ふるり、と首を横に揺らす。
彼が謝る理由を解っているからこそ、余計に自分が嫌になるのだ。

「どうして、謝るのさ？　サン君は何も悪くないよ。悪いのは僕だから、謝ったりしないで」

なんて不器用で優しい男だろうか、と出逢って何度思ったか解らない言葉が胸を満たす。
深黒に出逢わなければ、誰もが幸せだと思う生活も地位も手に入れられただろう。
深黒の為だけに全てを放り出してしまう参が哀れだった。
こんな寄生虫のような自分を選んでくれる参が愛しかった。
きっと深黒には責任があるのだ。