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悪戯してもイイよね?
悪戯してもイイよね? 01
しおりを挟む【悪戯してもイイよね?】
冬がやって来る。
冷たい風が落ち葉を巻き上げては吹き抜けていくのを横目に、もさり、と長めの黒髪を揺らし、急ぎ足で歩道を駆け抜けて行く。
悴(かじか)む両手を擦り合わせ、青年は帰路を急いだ。
彼の手には南瓜の入った買物袋が握られている。
10月31日に必ず行うことがあった。
南瓜尽くしの料理を食べ、柚子風呂に入り、同居している幼馴染の説教と言う名の講義を聞く。
本来の意味合いを忘れ去り、商業的に利用されていく祭日に対し、河東 参(カトウ サン)の怒りは毎年薄れることがない。
正月に始まり、節分、ひな祭り、と世の中が浮かれる日に、彼は不機嫌な顔で川路 深黒(カワミチ ミクロ)に愚痴を溢す。
特に参が嫌っているのが、ハロウィンとクリスマスにヴァレンタインである。
深黒が玄関の扉を開けると、腕を組み仁王立ちで待つ参がいた。
若干タレ目の細い両目が深黒を睨み、エコバッグを奪っていく。
「おかえり、クロ君。寒かっただろ? ……今日の夕飯は?」
「た、っ、たたた、ただ、いま。えっ、と。手がすごく、冷たくなっちゃった、よ。もう手袋が必要だね。えっと、あの。南瓜の煮物、挽肉と南瓜の炒め物、南瓜のスープ、南瓜サラダ、南瓜のタルトケーキ、だよ」
よく吃(ども)り、目線はあちらこちらを彷徨い安定しないのが深黒の常である。
挙動不審な動作で靴を脱ぎ部屋に上がると、エコバッグを床に置いた参の掌が冷えた両手を包み込んだ。
「ああ、本当だ。冷たい。手伝うことがあれば手伝うよ」
参と深黒は、七歳の頃からの幼馴染で親友だった。
13歳の頃、父に母を殺されてから深黒は自分の記憶を捏造して生きてきた。
父からの性的虐待を忘れたいが為に、男から性的アプローチを受ける度に事実を捻じ曲げてきたのだ。
父との望まない性行為。
参の高校の先輩達に輪姦されたこと。
参の大学の教授に幾度となくされた性行為。
それ等は確実にあったことなのに、自分がされたことを知らずに、ずっと深黒は参に守られて生きていた。
ひょんなことから記憶を取り戻した深黒と、長いこと深黒への恋心を自覚しないように生きてきた参との間で、様々なやりとりがあり、深黒は参の想いを受け止めることにしたのだ。
深黒にとって、参のいない人生など考えただけで死にたくなるものでしかない。
参とは、空気と同じ存在である。
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