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一章:援交とタローさん
逃げたい中学生、追い掛けたい大人 02
しおりを挟む「……太一君がシャワー浴びてる間に学生証を見たんだ。本当はもっと早く来たかったんだけど。仕事が忙しくて遅くなった」
近付いて来る男に一歩後退する。
意味が解らなかった。
太一は動揺するのを隠そうと怒った顔を作る。
「約束は守ってくれないと困ります。学校に来るなんて迷惑です」
強い口調で言い切り、身体の向きを元に戻して歩き出すも、がしり、と手首を掴まれ太一の足は止まる。
「タローさ、ん。本当に、困るんです。放して下さい」
何事かと注目されているのが嫌で俯く太一の耳に口を寄せて青年が囁いた。
「田神 朗太だよ。此処だと困るよね? 話が出来るところに行こうか」
田神 朗太(タガミ ロウタ)と名乗った男に手を引かれ、太一は迷った挙句、青年の後に続く。
連れて行かれたのは学校から歩いて10分程の路地裏にひっそりと佇む喫茶店だった。
カランコロン、と風流な音を立て開いた扉の隙間を縫って我が物顔で進んでいく朗太に手を引かれ、カウンター席の奥にあるテーブル席にと腰掛ける。
他に客はいないようだった。
黒と白で統一されたお洒落な内装に、BGMで流れているクラシックの曲が合っている。
「俺は珈琲にするけど。紅茶もあるし、お茶系もあるし、ジュースもあるから。選んで」
にこり、とも笑ってくれない朗太にメニュー表を渡され、おずおず、と開く。
ドリンクメニューと軽食メニューが載っている。
「オススメはミックスジュース。美味しいよ」
口調は優しいのに矢張り表情は険しい朗太に気圧され俯いてしまう。
何度か瞬きを繰り返し、太一はメニュー表を元の場所に置いた。
「……じゃあ、それにします」
小さく発した太一の返答に頷いた朗太の手が挙がる。
カウンターに立っている店員が此方に視線を投げているが近付いてくる気はないようだった。
「スーさん、いつものとミックスジュースお願い」
それでも、朗太は慣れているのか戸惑うことなくオーダーを叫び「宜しく」と付け足している。
知り合いなのか親しい呼び方に驚愕して朗太をマジマジと見詰めていた。
「あのさ、太一君。あの日、君を傷付けたなら謝りたい。……お金、置いていっただろ?」
気まずい空気の中で話し始める青年に視線を下げ俯く。
ジクジクと痛む胸から拡がる苦しみに堪えようと唇を噛み締めた。
「……別に、傷付いてなんかいないです。お金も、馬鹿げたことは、もうやめようと思っただけだし。勘違いしないで下さい」
顔を上げないまま冷たく言い放つ。
何処までも優しい男に腹が立った。
嫌えたならば楽だったのだろうか。
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