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一章:「さようなら」は許さない
臆病な恋心 03
しおりを挟む道無き道を大陸地図に表示される矢印だけを頼りに進む。
【本】が無ければ恐らくはあっという間に遭難していたかもしれない。それ程に山中は人の手が入っていない様子だった。
そう言えばスタ・アトの村周辺ですら切り株を見なかった。山間にありながら林業を営んでいない村って有り得るのだろうか?
もしかするとミッション1の世界設定に関する未設定部分が影響しているのかもしれない。
「もうすぐだヨ。上手い事モンスターにも見つからなかったし運が良かったよね♪」
あ、そう言えばもう一つ忘れていた。
「【怪物】と言うのは敵対生物の事ですよね?」
「ん? そうだヨ。他にも魔物だとかクリーチャーとか呼ばれる事もあるけど」
『魔』物───。『魔』の文字は煩悩や凶事、執着を表す文字でもあり、サンスクリット語で障害・破壊・殺す者などの意を持つmāraの略ともされる。いずれにせよいい意味では無い文字だ。
彼が選択した歴史ルートによりこの世界に出現した敵対生物は確かに命を危ぶむ存在ではあるが…しかし果たしてそれが本当に『魔』物と称されてもいい理由になるのだろうか。ゲームやファンタジーの中では当たり前の存在であるのならば、それは人が生み出したモノだ。
「どうして『魔物』なんでしょうね」
「えっ? どうして?って…」
「確かに放っておけば人や動物に害を及ぼすかもしれません。でもそれはあくまでもそういう役割であるからであり、彼等にしてみたら野生の動物が生きる為に命を食らうのと同じ行為なのではないでしょうか」
「イヤ…さすがにそこまで考えた事は無かったヨ…。相変わらずキミすごい事言うよネ…」
神々廻さんは腕を組んで顎の下をボリボリ掻いた。
「敵だから倒す、倒して経験値にしてレベルを上げる、レベル差があり過ぎるとやられる、だから強くなるために勝てるヤツを大量に倒す…。ゲームではずっとそういう扱いだったし、そういうシステムのひとつでしかないって思ってたからなァ…」
だからと言って同じ命だから無下に殺すなんてやめましょう、なんて言わない。
本のシステムは絶対だろう。つまりそういう役割として召喚されてしまった以上、こちらが手を出さなくても向こうはきっと存在意義に則って命を奪いに来る。衝突を回避出来ればなどという考えは恐らくは通用しない。
「まさか…みさキン、敵は倒すな!って言うつもり?」
「いいえ、それは有り得ません」
ピシッと言い放つ。
人類は生き残り歴史を紡ぐ為に彼等を殺め続けるだろう。それはこの星の歴史の為の必要な犠牲なのだ。誰にも手を合わせてもらう事の無い───
ならば、せめてその業だけは背負おう。産み出してしまった側として。
「敵対生物の総称ってまだ未設定のままですよね?」
「え? …ああ、うん、決まってないヨ」
彼が本を開いて確認する。
「お願いがあるのですが、それ…私が決めてもいいですか?」
「えっ? マジ!? なんかイイ名前あるの?」
「ええ…。名称は───」
その名を聞く度に私は思い出し、いつまでも忘れないだろう。そしてその意味を誰も知らずとも、この星に生きる人々の中に永遠に刻まれて欲しい。
自分達が生きる為に犠牲になるモノ達がいるという、その意味を。
《 世界設定/名称/敵対生物総称:ヴィクティム が世界に登録されました。世界設定の一部名称に修正が入ります。》
(次頁/22-2へ続く)
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