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一章:「さようなら」は許さない
臆病な恋心 02
しおりを挟む一緒に食事をしてから、史壱と修斗は仲良くなっていた。
羽李を介さずとも話す時も増えている。
それを嬉しく思う反面、彼と過ごす時間が苦痛だった。
自分が同性愛者だと自覚したのは小学校高学年の時だ。
性的な知識を得る機会を学校で作られ、好奇心も湧いてくる年頃に、史壱は違和感しか抱けなかった。
周りの友人達が何処から入手したのかエロい本を読んでいても、一人取り残されてしまう。
表面では興味のあるフリをして、内心では何に興奮しているのか理解出来ないでいたのだ。
胸が大きいだとか、手足が綺麗だとか、可愛いだとか、男が女性を見る目線を自分が持っていないことに気付いた。
そして、本来ならば女性に向けるべき目線で男性を見ていることにも同時に気付いてしまう。
女子には高鳴らない心臓が、男子といると煩くなる。
好きだなあ、と思うクラスメイトは男で、友情だと思っていた想いが恋愛感情だったのだ。
恋愛は男女でするものだという前提で進んでいく性教育に違和感が生じるのは当然だと納得した。
学校では男同士の交わり方も、女同士の交わり方も、そういった形があることでさえも、教えてはくれない。
自分が同性を愛する性質なのだと気付いた途端に、社会で蔓延(はびこ)る差別の深さを痛感し、異常者なのだと思い知るのだ。
自分自身でさえも同性愛者を異常として捉えてしまっている現状があるからこその恐怖である。
自分で自分に異常だというレッテルを貼り付けること程、辛いこともなかった。
そうせざるを得ない社会が嫌だった。
何処のコミュニティーに属したとて、少数は異常扱いされ迫害され排除されていく。
本当は「異常ではない」と叫びたかった。
人を愛することの何が異常なのか、と問い質したかった。
けれど、世間一般の定義する「普通」に押し潰されて生きるしかないことも重々承知している。
テレビで同性愛者が出れば周りは「キモい」と笑い、時には「お前ゲイかよ!」などと言って笑いの種にすらする。
正常と異常とに分けては、正常が絶対の真理であり正義だと決め付け、それ以外は受け付けようとしない。
それがこの社会の風潮だと知っていた。
同性愛者だと自覚してもカミングアウトすることなく、気持ちを殺して女性と付き合い結婚する、はたまた、一生独身を貫くか。
そういう人間も多いと聞く。
一生付き纏う差別が恐ろしくて堪らない。
史壱もそうあるべきだと自分に言い聞かせて生きていた。
陰からコッソリと想いを寄せるだけでいいのだ。
自分が同性愛者であることを、決して周りに気付かれないようにと生きていた。
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