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一章:「さようなら」は許さない
臆病な恋心 01
しおりを挟む【臆病な恋心】
高校時代、同性愛者であることを打ち明けた親友がいた。
一年の頃に同じクラスだったサッカー部に所属する夏木 羽李(ナツキ ウリ)という男だ。
彼はヤンチャな出で立ちで、暗い赤茶色の髪は目を隠し、襟足より少し長かった。
ヤンキーとまではいかないが、真面目とは程遠いところにいる。
そんな見た目でも中身は面倒見が良くて意外と真面目だった。
そのギャップが宅福 史壱(ヤカネ フミイチ)だけでなく、周りの人間を虜にしていた。
はじめて彼を見たのは、羽李に誘われてサッカー部の練習風景を見学した時だ。
チャラい人間しかいないサッカー部で、彼一人が真面目なのが印象的だった。
黒い髪は短く切り揃えられていて精悍に映り、笑うと頬に刻まれる笑窪が可愛く思えた。
遠藤 修斗(エンドウ シュウト)に一目で心を奪われていた。
羽李の練習を見るという名目で、サッカー部の練習をフェンス越しに眺めるのが日課になっていたある日。
ふーみー、とグラウンドから手を振り小走りでやって来た羽李の後ろに修斗がいるのを認め、史壱は何度も双眸を瞬かせた。
「今日さ、飯食って帰ろうぜ? あ、コイツ。同じ部活の遠藤な。遠藤 修斗。一緒にいいだろ? シュウがしつこくフミのこと聞いてくんだよ。面倒だからお前等で話して」
にかり、と屈託のない笑みをみせる羽李に内心では戸惑い、けれどもそうとは解らぬようにと微笑む。
額から汗を流す二人を眺め、史壱は小さく頷いた。
「宜しく、遠藤君。僕は宅福 史壱。適当に呼んでくれて構わないよ」
ドキドキと高鳴る心臓が煩い。
変に赤面していないか気になり誤魔化すように下を向く。
彼を目で追うようになってから三ヶ月。
話せる日が来るとは思ってもいなかった。
修斗は一年生ながらにレギュラーに入り込む程の実力者で、校内でも有名だ。
「ああ、宜しく。そんな堅苦しく呼ばなくても良いよ。フミって呼ぶから、俺のこともシュウって呼んで?」
何処か嬉しそうにはにかんでいる修斗の首が傾いていく。
ん、と頷き史壱はフェンスの網を強く掴む。
皮膚に食い込む痛みが心地良かった。
騒ぐ胸が落ち着くように息を吸い込む。
「今日は僕も委員会があって放課後は見に来れないから、終わったら連絡してくれ。じゃあ羽李、先に戻ってるよ」
本校舎の真ん中に設置されている時計に視線を遣れば昼休みも終わりに近付いていた。
「おう、後でな」
手を振る羽李に背を向け校舎にと歩き出す。
胸中で暴れ立てる「どうしよう」を御することも出来ず史壱は教室にと辿り着いていた。
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