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一章:「さようなら」は許さない
「久し振り」とは言えない 05
しおりを挟む思わず睨んでしまっていたようで、楓は苦々しい表情で息を吐き出す。
「逆に言えば、フウに相応しくないと判断したら容赦なく反対させて貰う。……まあ、何にしてもフウ次第なんだがな」
自身の髪を掻き混ぜた楓の顔が上向き天井を仰ぐ。
ちらり、と修斗に視線を投げた楓は眉尻を下げた。
「悪いけど、今日は仕事ハードだからさ。また出直してくれないかね? あんまりフウを追い詰めないでやってくれ」
其処まで言われてしまえば、仕事終わりまで待つ、と言い張るのが自己中心的な行為に思えてしまい、修斗は頷くことしか出来なくなってしまう。
渋々「では、また後日伺います」と頭を下げて店を後にした。
花束を二つ抱え店を出て行く修斗の背中を見送り、楓は短く「あー」と声を捻り出す。
「ノンケを好きになるのも、ノンケに好かれるのも、何だってこんなに切ないのかな。……フウ、今度は何を選び取る?」
バックヤードで仮眠を取っているだろう親友を想い、楓の胸中は穏やかではいられない。
男女ならば上手くいくというものではないが、性差別は昔も今も性的マイノリティーを抱える者にとっては大きな問題である。
元々が異性愛者の修斗にはまだ解らないのかもしれない。
「好き」だけではやっていけない巨大な壁が性差別の前にはいつでも立ち塞がるのだ。
それは偏見や差別であったり、法律の壁であったりする。
時には、謂れのない誹謗中傷に晒され、または脅されることすらある。
それだから、同種の人間を求め、ノンケに惹かれても諦めることを選ぶ者が多い。
多くの場合、ノンケが友情以上の気持ちを示してくれることはないのだ。
たとえ、友情以上の気持ちを示してくれたとしても、自分のせいで道を外させるのが怖いと逃げてしまう者もいた。
楓の短い人生で、異性愛者と上手く結ばれた同性愛者はいない。
異常を厭う社会に於いて、異分子であると認識された途端にレールから外され、異端として生きていくことを余儀なくされてしまう。
そうなることの恐怖を持ち続け、性癖を隠して生きている者が殆どだ。
楓のようにカミングアウトして生きている者はほんの僅かかもしれない。
楓にとって、史壱の存在は弟のように可愛くて放っておけないものだった。
元カレと付き合っていた頃の彼は、とても痛々しくて見ていられない程であった。
その原因である男が戻って来た。
もう会わない、と泣きながら誓った史壱の姿を知っている。
同性愛者には好きな人を好きでいる自由もない、そう言った彼は己の存在を呪ったのだろう。
全てを諦める道を選んだのは、二年前のことだった。
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