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一章:「さようなら」は許さない
「久し振り」とは言えない 03
しおりを挟む修斗自身も知らない史壱の事情を全て知っていると思われた。
それが殊更に修斗を嫉妬に走らせる。
どういう関係なのか考えただけで怒りに支配されそうだった。
「……花を、買いに来たんだ。客として扱って貰えると助かります。前いたチームに戻ることになって、お世話になっていた監督とコーチに贈りたいと考えているんですが……」
煮え滾る激情をどうにか呑み込み、この店に来た目的を告げる。
史壱に会うのが一番の目的ではあったが、出来ることならば彼に花を見繕って貰いたいと考えていた。
史壱に選んで貰うことは無理そうだが、其処は妥協するしかないのだろう。
「そういう事なら。どうぞ、中で詳しく聞きますよ」
真剣な顔から接客用の表情になる「いちじく」と書かれた名札を付ける男の後に続いて店内にと入った。
店長と名札に苗字と一緒に役職が書かれている。
史壱の上司であることに間違いはないのだろうが、それ以上の関係であることも修斗は勘付いていた。
陳列されている花を選び、花束にして貰った。
手渡された花束二つを脇に抱える。
「有り難う御座います。……フミは、貴方のことを相当信用しているみたいですね。親友にも話していないことを話しているようだし」
レジで操作をしている男を窺えば、彼は苦笑を滲ませていた。
困ったと頭を掻く姿は、大型動物が餌をねだっているようだ。
「まあ、同士だしね。元々ノンケの君には解らないだろうけど、同性愛で恋愛の相談が出来る相手なんて限られているんだよ。大学のサークルが一緒で、周りにも公言していた俺に相談を持ち掛けてくるのは自然な成り行きだと思う。同性愛者のコミュニティでもない限り、どうしたって同性愛者は孤独なんだ。ノンケの友人の恋バナには混じれない。あまりに混じらないと変な目で見られる。そういう孤独も、パートナーがしっかりしていればどうってことないんだけど。あのクズ男にそんな甲斐性は望めなくてね。先輩の俺としてはお節介をやいて、気付いたら親友みたいになってた訳で。俺にとってもフウは得難い友人なんだ。あんまり苛めないでやってくれ」
思っていた関係とは違ったことに安堵しつつ、きっと史壱の傍に彼がいてくれたことは救いになっていたのだろうと思えた。
感じていた嫉妬心は薄れていたが、同士であるのなら一度ぐらいの過ちがあったのではないかと疑ってしまう。
「あー、その顔は疑ってんね。俺とフウは恋愛対象になり得ないんだよ。タイプが全く違うのな。だから親友でいられる訳だ」
あはは、と笑ってお釣りを渡してくる男に全てを見透かされているようで複雑な気持ちになる。
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