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一章:「さようなら」は許さない
「久し振り」とは言えない 02
しおりを挟む引き下がるつもりのない相手に困り、茫然と修斗を見詰めていた。
「仕事、終わった頃にまた会いに来るから、教えてくれ」
どう断れば納得してくれるのか、史壱の中に答えはない。
そもそも修斗と言う人間は、高校時代から幾ら断ったところで、史壱を諦めようとはしなかった頑固者なのだ。
付き合っている人がいると伝えても、その彼が修斗の部活の部長であると知っても、史壱に好きだと言い続けていた。
握られた手に力が込められていくのを感じながら途方に暮れていると、店の自動扉が開き、筋肉質な身体付きのガタイのいい男が近付いてくる。
濃い顔立ちのハーフにも見える彼は、店長であり、史壱の大学時代の先輩でもある男だった。
「手を放して貰えませんか? アンタみたいな有名人が店の前で騒ぐといい迷惑なんでね。お客様でないのならお引き取り願いたい。……フウ、休憩行っといで。後は俺がやっておくから、ゆっくり寝な。一時間したら起こすよ」
今や日本で修斗を知らない者はいない程に有名なサッカー選手だ。
その上、市竹 楓(イチジク カエデ)は、修斗が史壱にとっては触れたくない存在であると知っている。
庇うように修斗の手から引き剥がし、体の後ろに隠してくれた。
「楓ちゃん、僕……」
「いいから早く行きな。お客様の相手は俺が引き受けるから、心配しなくても大丈夫」
楓の逞しい腕を掴んだまま固まる史壱の肩を押して店内に入れと促す男に、小さく頷いて背中を向ける。
店内に入ろうとした時だった。
「フミ! また会いに来るから。一度ちゃんと話をしたい。仕事じゃない時に会おう?」
縋るように切ない声色が史壱の胸をジクジクと突き刺していく。
後ろ髪を引かれる想いで史壱は修斗に答えを返さずに店内に入り、バックヤードの休憩室にと消えて行った。
* * * * * *
外に残された修斗は、目の前に立っている男を睨み付けた。
仕事仲間にしてはヤケに親しい雰囲気で面白くない。
史壱と離れていた月日は長く、自分の知らない関係も当然あるのは解っている。
それでも嫉妬心は消えていかないのだ。
「遠藤君。お客様としてなら幾等でも相手をするけどね。フウの同級生として来たのなら、今日のところは帰った方が良い。今はまだ傷が癒えていないんだよ。君の顔を見ればクズ男のことを思い出すし、思い出せばまた辛くなる。フウを想うなら近付かないでやってくれ。彼奴は身を切る想いで君との連絡を断ったんだ。それを無駄にしないでやって欲しい」
何もかも事情を知っているらしい男に腹が立った。
羽李でさえ知らないことを知っているのだ。
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