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一章:「さようなら」は許さない
「久し振り」とは言えない 01
しおりを挟む1.再会するには苦い恋
【「久し振り」とは言えない】
その日は良く晴れていた。
燦々と照り付ける陽の明かりに、宅福 史壱(ヤカネ フミイチ)は目を細めながら片手を上空に翳して空を仰ぐ。
周りには売り物の切り花や鉢植えが並べられていた。
此処は、春から史壱が正社員として働いているフラワーショップである。
決して大企業とは呼べない小さな会社を選んだのは、史壱が尊敬してやまない大学時代の先輩がいるからだ。
農学部で二つ上の学年だった彼とは、同性愛者という共通項を持っている。
心の底から信用出来る親友の立ち位置にいる先輩に誘われ、気持ちはすぐに固まった。
史壱が元彼と決別することを決めた時も、彼はずっと傍にいてくれたのだ。
互いに恋愛感情を抱くことのない関係で、何よりも理解し合える関係は心地良い。
5月も中旬を過ぎ初夏の暑さに目眩を覚えそうだ。
史壱は切り花を入れている水を張った色とりどりのおしゃれなバケツに水を足し、鉢植えの土には如雨露(じょうろ)で水分を与えていく作業をしていた。
「フミ」
唐突に掛けられた声色は、逢わないことを決めた友人のものに似ていて、ギクリ、と動きを止める。
俯いたまま顔を上げられずにいたが、肩を掴まれてしまえば相手を見ない訳にもいかなかった。
「……えん、ど、う。なんで?」
どうして日本にいるのか。
どうして此処が解ったのか。
どうして……。
その全てを内包した「なんで」だった。
遠藤 修斗(エンドウ シュウト)は、高校の同級生で、共通の親友を通じて知り合った友人だ。
そして、元彼が気持ちもないのに史壱と付き合っていた元凶でもある。
連絡を断つことを決めてから逢うつもりなどなかった。
住居を変え、携番も変えたのは、彼が海外に引っ越す時だったと記憶している。
かれこれ二年が経とうとしていた。
共通の親友である夏木 羽李(ナツキ ウリ)にも口止めはしてある筈で、修斗が目の前にいる現実に気持ちが追い付かない。
「久し振りだな。日本のチームに戻ることになって、今日帰国したんだ。お前、連絡先教えなかっただろ? 羽李を言いくるめて、此処で働いてるって聞いた。……なあ、フミ。ちゃんと話がしたい」
肩にある修斗の手が降りてくる。
如雨露を持つ手を握られて、史壱は言葉を失った。
真剣な眼差しは高校時代から変わらない。
短かい髪も昔のままに真っ黒で、チャラく見られがちなサッカー部の中で誰よりも真面目だった修斗を思い出す。
それであれ、懐かしさよりも胸に覚える痛みが史壱を頑なにさせた。
「仕事中ですので、プライベートな話をされても困ります」
「なら、何時に終わる?」
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