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一章:腐敗した恋心
無愛想なクラスメイト 03
しおりを挟むその広さを埋め尽くす人の波に押されながらもクラス毎に分かれている列に歩を進め、自分の名前の書かれたパイプ椅子に腰を降ろした。
名前順になっているのか、忠樹は前から二番目の位置である。
寝れねえなあ、と不謹慎なことを考えつつ式が始まるのを待った。
* * * * * *
退屈な入学式を終え、教室に移動した生徒に待ち構えていたのは自己紹介タイムだった。
アホ臭い、と内心では億劫で仕方がないのだが、拒める筈もなく、出席番号が二番の忠樹に順番はすぐに回ってくる。
前の生徒の自己紹介を聞き流し、かったりぃなあ、と胸中でぶつくさと文句を垂れる。
がたん、と前の席の生徒が座るのを椅子が立てる音で認識し、緩慢な動きで立ち上がった。
「あー、アンヅ タダキ。7月で16歳になりまーす。誕生日プレゼントは年中受け付けてるんで、遠慮なくどうぞー。教師になろうと企んでる同士がいれば仲良く受験対策しましょうぜ。ということで、彼女も彼氏も愛人もいらないけど、友人が欲しい忠樹君でした。いじょー」
がしがし、と頭を掻きながら適当なことを連ねた。
クラスにそれとなく馴染むにはおちゃらけた道化でいるのが効率的だ。
仲良くなろうとは全く考えもしないが、世の中、人脈が何処でどう役に立つのかは解らない。
あはは、と無邪気に笑っているクラスメイト達を一瞥し椅子に座った。
忠樹の後、何人かの自己紹介を右から左に聞き流し、早く終われ、と頬杖を着いて念じていた時だった。
「サカナカ ハルイ」
低い声で名前だけを告げた少年は席を立つこともせず、真っ直ぐに黒板を見ている。
焦茶色の髪が黒一色の生徒達の中で浮いていた。
硬い髪質なのか、短過ぎる訳でもないのにツンツンと尖って見える。
顔には何の感情も浮かんでいない、ただただ「無」が其処にはあった。
ぴりり、と彼の周りだけ空気が張り詰めている。
「おい、坂中。他にもあるだろ?」
すかさず担任に注意されても彼は無言で俯き首を左右させ何も言おうとはしない。
「ほら、何でもいいからもう少し何かないのか?」
尚も声を掛ける担任に、はあ、と息を吐き出した少年の顔が上がり、また黒板を真っ直ぐに射抜いている。
「群れる気はない。俺に構わないでくれ」
何処までも冷たく拒絶する言葉が放たれ、担任も口を半開きにして坂中 榛伊(サカナカ ハルイ)を凝視して動かない。
クラス中がシーンと沈黙し微妙な空気になる中で「せーんせっ!」と場違いな程に脳天気な声が響いた。
榛伊の後ろの席の生徒が手を挙げている。
「俺、イッちゃっていい?」
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