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一章:学園の闇
一歩、進む 04
しおりを挟む悠理と目を合わせ表情を和らげつつも告げると「はーい」と返事をして彼女は勝と雷紀のいる場所まで戻って行く。
「ねえ、あやちゃん」
悠理の後を追おうとして水紀に背を向けるあやに声が掛かる。
振り返ったあやに水紀が俯き加減で微笑んだ。
か弱い雰囲気を持つ彼の仕草に、あやでなければつい手を差し伸べたくなる風情である。
「何?」
視線を投げたあやに水紀の目が弟にと向かう。
遅れてやって来た彼の様子がおかしいことに、あやの片眉が上がる。
「雷紀、何か言ってた? 昨日のこととか」
本人に聞けば良いのに、と口に出掛けた言葉は結局外に出ることはなかった。
「いや、特には聞いていないが。気になることでもあったか?」
木結兄弟の関係は部外者が口を出せるような簡単なものではない。
中等部も三年に進級した頃に、アメリカで暮らしていた弟が日本にやって来た、と水紀から聞かされ、その時に初めて彼が双子だと知った。
アメリカの病院に入院していた雷紀は、曾祖母の死後、間もなくして日本の病院にと転院したと言う。
あやの知る情報は多くはないが、麻薬中毒者専門の病院だったと聞く。
水紀も接点のなかった弟の快復に苦心していた。
授業が終われば病院に駆け付け、休みの日も遊びの誘いを断り、雷紀を見舞っていた。
そんな中でも、両親が離婚し不安定だった悠理の支えにもなり、同い年とは思えない程にしっかりと見えたものだ。
本来の水紀はしっかりとした長男気質なのだろう。
彼をあざとい男だと思うようになったのも、この頃からだった。
廃人となり禁断症状と麻薬中毒の狭間で闘っていた雷紀も、家族の力もあったのだろう、今年度から同じ教室で机を並べるまでに快復している。
今も定期的に通院はしているようだが、今のところは順調だと水紀から聞いていた。
弟のことを気に掛けはしても、長年離れていた弟といきなり仲良くも出来る筈がなく、未だに彼等はぎくしゃくとしている。
それでも、水紀が雷紀を大事にしていることは伝わってきた。
本人の雷紀に伝わっているかはあやの知るところではないが、彼も馬鹿ではない。
あやの中で雷紀の評価は意外と高かった。
ゾンビのように思えてしまうのは、麻薬中毒から這い上がることの難しさをあや自身が知っているからだ。
賢留の件があってから、勝は麻薬について調べ尽くし、売人や仲介者を探っていた。
それを手伝っていたあやも、中毒状態からの復帰がとても難しいことを知識として得ている。
水紀を凝視すると、男にしては可愛らしい面立ちが苦痛に歪んだ。
息を吸い込んだ水紀の口が開く。
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