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一章:学園の闇
一歩、進む 02
しおりを挟むふざけてやがる、と雷紀も睨み返すのが当たり前の光景となりつつあった。
あやは右側の一部をリボンの着いたゴムで縛っている。
「あやちゃん、おはよう。今日の髪型いつもより可愛いね。悠理ちゃんとゴムお揃い?」
隣にやって来たあやに微笑み掛ける勝の手が彼女の頭に伸び、揺れる髪束を掬った。
擽ったそうに笑い頷くあやの目が、未だに雷紀を睨んだままの悠理に向く。
「ああ、さっき悠理がやってくれたんだ。私には似合わないと思うんだがな。でも、勝が気に入ったなら良かった。悠理、ありがと」
普段は男勝りなあやも、彼氏の前では若干乙女仕様になるのか、はにかんで俯いた。
どいつもこいつも色ボケしやがって、と再び机上に顔を伏せようとして、悠理の顔が下から覗き込んできてかなわない。
しゃがみ込んで雷紀の机に腕を乗せる彼女は機嫌の悪さを隠しもせずに一言問うた。
「水紀ちゃんは?」
いつも水紀と登校している悠理が知らないのならば自分に解る筈もない、と舌打ちを打つ。
「知るかよ。無駄にベタベタしてる癖に今日は一緒じゃねぇのか?」
ふん、とソッポを向く雷紀に、悠理の頬はみるみる膨れ上がる。
顔中を真っ赤に染めてツインテールを揺らす様はお子様の癇癪だ。
「今日は! 元々! あやちゃんと登校する予定だったのっ! 水紀ちゃんに限ってアンタより遅くなるなんて! 心配になっただけだもんっ!」
だんっ、と片足を思いっ切り床に叩き付けながら立ち上がった悠理は、隣で勝と見詰め合っているあやに涙目で抱き着いた。
「水紀にも用事ぐらいあるだろ。落ち着け、悠理」
背後から腕を回し背中に顔をグイグイと押し付けられても、あやは戸惑うこともなく静かに諭す。
勝の首が傾いて顎を擦る仕草をみせる。
何やら考え込んでいるようだった。
「水紀君にとっても辛かっただろうから。悠理ちゃんが支えてあげてね。勿論、僕達も出来る限りのことはするけど。……一番の癒しは好きな子に慰めて貰うことだと思うよ」
ぼけぼけと笑う勝の手があやの片手を掴み「ね、あやちゃん」と清々しい程に惚気てみせる。
本人に自覚はないのだろう。
あやは微妙に眉間を寄せた後で諦めたように頷いた。
「それはそうと。今日も行くんでしょ?」
然りげ無く勝の手から逃れ、悠理を引き剥がしたあやが話を変えるように問い、難しい表情で雷紀に視線を投げる。
「闇雲にぶつかるだけじゃあ時間の無駄だと思う。それでも私には、彼は何かを知っている、そんな風に見えた。ぶつかる意味は確実にある。でも一筋縄では心を開いてはくれそうにないね」
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