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一章:学園の闇
一歩、進む 01
しおりを挟む2.調査開始
【一歩、進む】
ざわざわとした喧騒の中を、雷紀は一人で歩いていた。
教室に向かう途中である。
いつも遅刻寸前の雷紀にすれば、早い時間での登校だ。
扉を開け放ち教室に足を踏み入れる。
クラスメイトの視線が彼にと一斉に向けられた。
「おはよう、雷紀君。昨日はありがとう」
真っ先に雷紀にと近付いてきたのは勝だった。
相変わらずの優等生面に黒縁メガネを引っ掛けている。
ふわり、と微笑む彼の物腰は柔らかいが、案外行動派で頑固なのではないかと思い始めていた。
「別に。たいしたこたぁしてねぇよ」
「でも、ありがとう。雷紀君の存在は、僕にとって心強いから」
ぶっきらぼうに言い放ち自身の席に向かう雷紀の背中を追い掛けて来る勝を横目に椅子にと腰を降ろす。
鞄を机の横に掛けているのを眺めて勝が躊躇いがちに「あのね」と口を開いた。
目線だけで先を促すと、彼は困り顔で眉を真ん中に寄せて苦笑を溢す。
「今日も行こうと思うんだ。勿論、来て貰えたら嬉しいんだけど。もし嫌なら断ってね」
覚悟を決めた男の顔で話す勝を凝視し、雷紀は視線を机上にと移した。
先日、雷紀だけが和泉原家に戻ったことを知っている者はいない。
雷紀は溜息を吐き出し、がしがし、と乱暴に髪を掻いた。
真哉のことを考えるとヤケに落ち着かない自分がいる。
「……行く」
一言だけを置き去りにして雷紀は机に上体を伏せ、寝る体勢にと入った。
嬉しそうに微笑んで「ありがとう」と言う勝の言葉が、何処か白けて聞こえてくる。
雷紀には、勝の求めている答えが解らない。
知ろうとも思わない。
正直なところ、友人とも呼べないただのクラスメイトだ。
だが、彼が正義感や友情などという理由で動いているのではないことだけは感じられる。
それだから雷紀も協力する気になってしまうのだろう。
正義感も友情も、そんな下らない陳腐な感情で動く人間も、雷紀が嫌うものだった。
恐らく勝は、もっと利己的な理由で動いている。
綺麗言を並べ立て協力を求められるよりは、自己の都合の為に利用される方がまだマシに思える。
優等生面した優男の勝に何処まで自覚があるのかは定かではないが、利用出来るものは何でも利用する覚悟が彼にはある気がした。
その覚悟が見えるからこそ、雷紀は勝を嫌えないのだ。
「勝、雷紀。おはよう」
「おっはよー!」
勝と雷紀の間に流れていた穏やかな沈黙を破ったのは、あやと悠理だった。
ツインテールを揺らしあやと並んで歩いている悠理は、顔を上げた雷紀に「んべっ」と舌を出して睨み付けている。
これが彼女の雷紀への挨拶だ。
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