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一章:学園の闇
失ったもの 15
しおりを挟むこの男は、自分と同じなのだと、認識しても消えない恐怖が真哉の体を余計に震えさせた。
近いからこそ、逆に恐れは増すのだ。
「……別に、恩とか売るつもりはねぇから。協力しろとは言わねぇよ。俺も越して来たばかりで、彼奴等を完全に信用している訳でもないしよ」
ガタガタと震える真哉を一瞥し、雷紀は気にした素振りもなく、ただ黙っていたが、唐突に口を開いた。
勘違いすんなよ、と怖い顔で睨んでくる。
頭をガシガシと乱暴に掻く姿は、不良にしか見えず、本来ならば怖いだけの存在だ。
しかし、彼の気遣いが胸に沁みる。
真哉は一度頷いて、もごもごと唇を動かした。
ギュッ、と雷紀から渡された袋を握り締める。
「あ、あり、ありが……とう」
下を向いたのは、雷紀を直視するのが怖かったからだ。
他人に気持ちを伝えるのも、酷く久し振りな気がして、小さな小さな吐息のようにしかならなかった。
それでも届いたのか、彼には伝わったようで、驚きに目を見張っている。
あー、と低い声を出して、雷紀はソッポを向いてしまう。
「礼、言われるようなことは、してねぇよ」
抑揚の感じられない響きに、真哉はそろそろと顔を上げ雷紀を窺った。
何処となく寂しそうな、悲しそうな、そんな切ない色を魅せる瞳で遠くを見ている。
親友のことを考えているのだと、何となくだが、そう思った。
思い出せば辛かった出来事が、つい先程のことかのように廻(めぐ)る。
どうにもならなかったことは解っていて、それでも己を責めて責めて、責め尽くして、ただ茫然と日々を重ねる。
生きているのか死んでいるのかさえも解らない。
息をしているだけの傀儡だ。
雷紀もそんな日々を過ごしたのだろうか。
今の真哉が藻掻いても抜け出せない日常から、彼は抜け出したのだろうか。
それならば羨ましい、と真哉の心に久し振りの光が芽生えた。
それは、とても僅かな、小さな小さな希望ではあったけれど、真哉にとっては十分だった。
ふっ、と視線を落とす。
雷紀を見ているのが辛かった。
抜け出しても尚、親友の死は彼を苦しめているのだろう。
それが痛い程に解った。
希望など抱いたところで、何かが変わる訳ではない。
「僕が……言いたかった。それだけ。意味はないよ」
大きく息を吸い込む。
顔を上げて告げれば、雷紀の顔が此方を向いた。
「ならいい。……邪魔したな」
無表情で頷くと、彼は踵を返してドアノブに手を掛ける。
そのまま出て行くのだと思った。
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