31 / 36
一章:学園の闇
失ったもの 15
しおりを挟むこの男は、自分と同じなのだと、認識しても消えない恐怖が真哉の体を余計に震えさせた。
近いからこそ、逆に恐れは増すのだ。
「……別に、恩とか売るつもりはねぇから。協力しろとは言わねぇよ。俺も越して来たばかりで、彼奴等を完全に信用している訳でもないしよ」
ガタガタと震える真哉を一瞥し、雷紀は気にした素振りもなく、ただ黙っていたが、唐突に口を開いた。
勘違いすんなよ、と怖い顔で睨んでくる。
頭をガシガシと乱暴に掻く姿は、不良にしか見えず、本来ならば怖いだけの存在だ。
しかし、彼の気遣いが胸に沁みる。
真哉は一度頷いて、もごもごと唇を動かした。
ギュッ、と雷紀から渡された袋を握り締める。
「あ、あり、ありが……とう」
下を向いたのは、雷紀を直視するのが怖かったからだ。
他人に気持ちを伝えるのも、酷く久し振りな気がして、小さな小さな吐息のようにしかならなかった。
それでも届いたのか、彼には伝わったようで、驚きに目を見張っている。
あー、と低い声を出して、雷紀はソッポを向いてしまう。
「礼、言われるようなことは、してねぇよ」
抑揚の感じられない響きに、真哉はそろそろと顔を上げ雷紀を窺った。
何処となく寂しそうな、悲しそうな、そんな切ない色を魅せる瞳で遠くを見ている。
親友のことを考えているのだと、何となくだが、そう思った。
思い出せば辛かった出来事が、つい先程のことかのように廻(めぐ)る。
どうにもならなかったことは解っていて、それでも己を責めて責めて、責め尽くして、ただ茫然と日々を重ねる。
生きているのか死んでいるのかさえも解らない。
息をしているだけの傀儡だ。
雷紀もそんな日々を過ごしたのだろうか。
今の真哉が藻掻いても抜け出せない日常から、彼は抜け出したのだろうか。
それならば羨ましい、と真哉の心に久し振りの光が芽生えた。
それは、とても僅かな、小さな小さな希望ではあったけれど、真哉にとっては十分だった。
ふっ、と視線を落とす。
雷紀を見ているのが辛かった。
抜け出しても尚、親友の死は彼を苦しめているのだろう。
それが痛い程に解った。
希望など抱いたところで、何かが変わる訳ではない。
「僕が……言いたかった。それだけ。意味はないよ」
大きく息を吸い込む。
顔を上げて告げれば、雷紀の顔が此方を向いた。
「ならいい。……邪魔したな」
無表情で頷くと、彼は踵を返してドアノブに手を掛ける。
そのまま出て行くのだと思った。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説

君に会える夜のこと
朝賀 悠月
BL
短いお話です。
健司は、廃校になった古い校舎に来ていた。
別に約束をしているわけじゃないけれど、年に一度、毎年この場所で、会いたい君と他愛もない話を沢山して笑い合うために。
君と過ごすこの時間が、何よりも幸せだった。
けれど、あの日から十二年経つ明日、この校舎は壊されてしまう……
健司と隼斗、二人の思い出の場所が……



ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる