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一章:学園の闇
失ったもの 14
しおりを挟む扉が叩かれる音がした。
母親でも父親でもない。
叩き方が違う。
パニックに陥りそうになった時だった。
「和泉原、開けろよ。話がある」
あの男の声が響く。
息が止まった。
動悸が異常なまでに加速する。
「……辛いんだろ? 禁断症状。俺の使ってたやつ。抑える薬、余ってたから。使えよ」
たどたどしかった。
言葉は拙くて、それでも、意味は通じた。
上手い言葉で説明されるよりも、何故だろうか、心に響いたのだ。
気付けば扉を開けていた。
キィー、音を立てて開いていくのが、スローモーションに感じられる。
あの男、雷紀と名乗った少年は、吃驚した顔を晒していた。
「は、入れ……よ」
ドキドキが止まらない。
他人を自分のテリトリーに入れるなど、久し振りのことだった。
怖いと体は震えた。
それなのに、気持ちは彼を迎え入れようとしている。
矛盾だらけだ。
けれども、彼にしても一大決心の元に此処にいるのだと知れた。
僅かに震えている手が、固く結ばれるのを見た。
拳を握り深呼吸をしてから、雷紀は一歩を踏み出す。
境界線。
扉から向こうは、異次元だ。
敵しかいない。
其処から彼はやって来た。
引きこもってからは誰も入れなかった自分だけの世界に、その男は足を踏み入れたのだ。
緊張や畏怖の念が心を覆い尽くす。
ガタガタと震える体を止めようと、掌を強く握り締めた。
爪が食い込む。
それでも、止まらない震えは、今自分が何かと闘っている証だ。
カチカチと歯と歯がぶつかって音が鳴る。
荒い呼吸を繰り返した。
雷紀の体が全て此方側に収まると、バタンと扉が閉まった。
沈黙の中で、真哉の恐れだけが音となって響いている。
「すぐ帰るから、安心しろ。お前に合うか解らないけど。ちゃんと病院行って自分に合う治療、して貰え。それまではこれで抑えられると思うから」
困ったように自身の頭をくしゃくしゃに掻き乱すと、彼は白い錠剤の入った袋を渡してきた。
それを受け取り、雷紀をマジマジと見詰める。
「な、何で? こんなこと」
してくれるの、と問う言葉は途中で遮られていた。
「親友が死んだ。薬物中毒で、禁断症状に耐え切れずに自殺した。本当はもう麻薬には関わりたくない。関わりたくないけどよ、知った以上は放っておくのも後味悪いんだ」
真剣な瞳が真哉を捉える。
何も返せなかった。
俯いて唇を噛み締める。
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