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一章:学園の闇
失ったもの 10
しおりを挟む連れて行かれた部屋の中は、滅茶苦茶に散らかっていた。
あちこちに転がる薬のような錠剤と粉末が梱包されている小さな袋が目に付く。
なんとなく、授業で習った麻薬を連想し、佚をまじまじと見詰める。
「あぁあぁあ、真哉あ? 何、しに来たあ?」
締まりのない佚の顔が、ぐっと近付いた。
目の周りはクマで変色し、ヤケに窪んで見える。
「い、佚、お前。麻薬、じゃないだろうな?」
「あはは、ははっ、やっぱしワカルう? すげぇ、イイよ! シンヤもやろうぜぇえぇ」
恐る恐る、違うことを祈りながら尋ねた。
彼の首が横に振られることを願い、どうにか口にして、己の想いが悉(ことごと)く踏み滲られていく現実に心が折れそうになる。
「なに、やってんだよっ! 佚、ダメだ、死んじゃうよ」
真哉は必死だった。
親友が駄目になってしまう、と一杯一杯の頭で、どうにかやめさせようとした。
彼の胸倉を掴み、左右前後に揺らす。
「だぁまれえぇっ! 何様だよ、おまえぇえぇ」
佚が叫ぶのを聞きながら、気付けば床に倒れ込んでいた。
頬が痛い。
打ち付けた背中が痛む。
拳で殴られた、と認識する前に、馬乗りになった佚に何度も何度も頬を打たれた。
鼻血が出て、口まで垂れて、切れた口の血と混じった。
悲鳴も出ない。
真哉はただただ耐えた。
けれど、佚の暴行はやむことはなく、目や頭、腹部に下腹部も殴られ続けた。
もう意識は殆んど無かったが、佚の父親が止めに入る声だけは鮮明に覚えている。
気付くとリビングのソファーに横になっていて、傷付いた体には包帯が巻かれていた。
ソファーの下には、何回か会ったことのある佚の父親が膝を抱えて座っていた。
気配で真哉が起きたと気付いたのか、彼はか細い声で、ごめんね、と呟く。
顔は上がらない。
肩が震えていた。
「真哉君、痛かったよね。ごめん。佚が、ごめんね。なんか、佚、可笑しくなっちゃってさ。麻薬やってるみたいで、止めたんだけど、駄目なんだ。捨てても捨てても、何処からか手に入れてくるんだ。どうしたら、良いのかな」
佚の父親は、ずっと謝り続けていた。
彼はバツイチで、男手一つで佚を育てていた。
今まで一人で佚と闘っていたのだろう。
良く見れば、うっすらと殴られた痕が見える。
「おじさん。僕も力になりたい。なんとかやめるように説得してみるよ」
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