Drug Crazy.

一章：学園の闇

失ったもの 09

彼女にとっては、それが唯一の救いであった。


　それだから、悠理は思うのだ。
何があっても水紀を守ると、心に決めた。
今回のことは、きっと皆の心を掻き乱していく。
それでも、前に進むには必要なことだと思えた。
一人ではないから、どんなに辛くて残酷でも、乗り越えられるような気がした。


　ゆうちゃん、と悠理を気遣う声が耳許を擽る。
背中を優しく撫でられた。
水紀はいつでも優しい。
悠理が大変だった時、水紀も雷紀の件で大変だった筈なのに、それでも彼は、一度も悠理に当たらなかった。
泣き喚く悠理のことをいつでも抱き締めてくれたのだ。


　悠理は顔を上げる。
水紀の可愛らしい顔が目に入る。

「ねえ、水紀ちゃん。多分、これから精神的に皆辛くなると思うの。５人共、何かを抱えてる。それでも、ユウリ怖くないよ。一人じゃないから、頑張れるよ。ねえ、ユウリは誰よりも頼りなくて子供かもしれないけど。でも、頑張るからっ、水紀ちゃんもユウリのこと頼ってよ。甘えてよ。ユウリ、支えになれないかもしれないけど、それでも頑張るから。一緒に生きたい……っ！」

驚く水紀の表情を認識する。
彼は目を大きく見開いて、ぱちぱちと瞬いた。
そして、瞼を伏せて震える声で「うん」と返事を返すのだった。


＊　＊　＊　＊　＊　＊


　薄暗い部屋にいると、とても落ち着く。
真哉は５人が帰った後、呼び止める母を振り払い、部屋まで駆け戻っていた。
ばたん、と扉を閉めて鍵を掛ける。
心臓がばくばく煩かった。


　麻薬をしていたという男。
それだけで恐怖だと言うのに。
可愛らしい少年の言葉は、真哉の心を直で鷲掴んで引き摺ろうとした。
怖かった。
扉に背中を着けて、ずるずると座り込んだ。
体がガタガタと震える。
足を抱え、頭を抱えた。


　思い出す度に、体は痛みを訴えた。
大好きだった親友は、大切だった友人は、麻薬に狂い、麻薬に殺された。
優しかった親友が、可笑しくなったことに気付くのには、そう時間は掛からなかった。
無断で休むようになった佚が心配だった。
佚は、人間嫌いの自分に初めて出来た友人で、大切な親友だ。
彼の家まで様子を伺いに行った其処で、真哉は見てしまったのだ。


　インターホンを押した真哉を出迎えてくれた佚は、痩せ細り、顔面蒼白だった。
ニタニタと嫌な笑みを浮かべて、上がれよと乱暴な口調で真哉を家に通した。