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一章:学園の闇
失ったもの 03
しおりを挟む麻薬中毒者だったのだ。
だが、大人は気付いていなかった。
みつでさえも、忙しい仕事に追われ、斡の異変に気付けなかった。
ただ、雷紀だけは知っていた。
一緒に麻薬を使っていたのだ。
斡のガラの悪い友人とも親しくしていた。
二人でこっそりとシンナーを吸い、理性を失ったり、覚醒剤やLSDを摂取したり、と好き放題に麻薬を摂り続けていた。
そして、ある日。
斡の体は許容量を超えたのだ。
麻薬とは、快楽を与える代わりに、命を奪っていく。
麻薬中毒者が、それを承知で麻薬に溺れているのかは、個人にも因るだろうが、恐らくは、大多数の人間に死ぬ覚悟などないのだろう。
斡や雷紀とて、そんな覚悟は無かった。
寧ろ、麻薬とは何かも知らずに、快楽だけを得られると誤った知識の上で、中毒者になってしまったと言っても過言ではない。
麻薬に理性も人格も、何もかもを奪われ、斡は人間として壊れていった。
そうなって初めて、周囲は二人の現状を知ることになるのだ。
だが、もう手遅れであった。
みつが気付いた時には、斡の脳は麻薬に食い潰され、肉体は強い副作用によってボロボロになっていた。
入院はしたが、強い禁断症状により、斡の精神は崩壊していた。
既に麻薬の過剰摂取により、統合失調症と似た症状を来していたところに、追い打ちを掛けるかのように、禁断症状は斡を苦しめていたようだ。
そして、あの日。
斡は自らの命にピリオドを打ったのだ。
病院の清潔な白いベッドシーツの上を、真っ赤な血液と、千切れた舌が飾っていた。
ベッドの上で息絶えている斡を発見したのは、別室で入院していた雷紀であった。
雷紀もまた麻薬をやっていることが母親に知れ、強制的に入院させられていたのだ。
雷紀は、この時初めて、死というものに恐怖を覚えた。
身近な者の死に触れて、漸く生きることの尊さを知ることが出来たのだ。
生きたいと強く思うようになり、同じように禁断症状に苦しんでいた雷紀だったが、なんとか快復するに至るのだった。
目の前でみつが手を合わせている。
雷紀も目を瞑り両手を合わせた。
斡の死があったからこそ、辛い禁断症状を乗り越えられたことを、雷紀は解っていた。
だからこそ、定期的に彼のお墓に訪れているのだ。
斡の分も、などとクサイ台詞は言いたくないが、雷紀にとって、あの日から自分の命は自分だけのものではなくなっていた。
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