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一章:学園の闇
失ったもの 01
しおりを挟む【失ったもの】
学校で皆と別れた雷紀の足は、知らず知らずの内にある場所にと向かっていた。
バスに乗り込み、向かった先は小さなお寺であった。
雷紀はポケットに手を突っ込み、寺の門を見上げている。
なかなか入ろうとしないのは、決心が付かないからか。
「雷紀君?」
不意に背中から名前を呼ばれ振り向けば、其処には一人の女性が立っていた。
手には、菊などの花と、墓参りの道具が入っているであろう手提げバックを持っている。
「……どうも。お元気でしたか」
雷紀にしては珍しく、丁寧な言葉で、けれど、何処かやるせなさそうに彼女から視線を反らしながら、会釈をした。
50歳半ばだろう彼女もまた、切ない笑みを浮かべて頭を下げた。
「時々、お花を添えてくれているのは、雷紀君?」
小首を傾げて尋ねるその女性に、頷きを返した雷紀は、片手をポケットから出して頬を掻いた。
「この間、アメリカから連れ戻されたから。勝手に追い出した癖に、俺を日本で監視してやがる」
「そう、ね。貴方の家の事情は、難しいから、私も勝手なことは言えないけれど。もう体は、大丈夫?」
困ったように眉尻を下げ、彼女は雷紀に並ぶ。
自然に二人並んで門を潜った。
「ああ、なんとか。禁断症状も軽くはなった。……けど、麻薬絡みの事件に巻き込まれそうになってる」
「もう、手を出しては駄目よ? 息子を喪って悲しむのは、私だけで十分だわ。でも、ごめんなさいね。息子のせいで貴方にも苦労を掛けたわ」
会話を続けながら、入って左に設置された水道に向かう。
水道の横に置かれた棚からバケツを取り出し、蛇口の下に置けば、其れを捻る。
じゃああぁぁ、と勢いよく水が汲まれていくのをしゃがみ込んで彼女は見ていた。
雷紀は、それを後ろから眺めていた。
「なあ、先生。親友を麻薬中毒で亡くした奴がいて、そいつは、心を閉ざしている。放っておいた方が、良いよな。俺は、巻き込まれたくないんだ」
「その子、苦しんでいるんでしょ? 貴方なら、解ってあげられるんじゃないの? あまり無理は良くないけれど、出来うる限り力になってあげたら? 私は、何の力にもなれなかった。すごく後悔、したの。解るって、素敵なことよ。誰にでも理解出来る訳じゃないんだもの」
しゃがみ込んだ状態で、彼女は雷紀を見上げた。
煩く聞こえる放水の音の中で、不思議と彼女の声は凜として響いた。
「先生が後悔することなんか、ないだろ」
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