Drug Crazy.

Neu(ノイ)

文字の大きさ
上 下
17 / 36
一章:学園の闇

失ったもの 01

しおりを挟む


【失ったもの】


 学校で皆と別れた雷紀の足は、知らず知らずの内にある場所にと向かっていた。
バスに乗り込み、向かった先は小さなお寺であった。


 雷紀はポケットに手を突っ込み、寺の門を見上げている。
なかなか入ろうとしないのは、決心が付かないからか。

「雷紀君?」

不意に背中から名前を呼ばれ振り向けば、其処には一人の女性が立っていた。
手には、菊などの花と、墓参りの道具が入っているであろう手提げバックを持っている。

「……どうも。お元気でしたか」

雷紀にしては珍しく、丁寧な言葉で、けれど、何処かやるせなさそうに彼女から視線を反らしながら、会釈をした。
50歳半ばだろう彼女もまた、切ない笑みを浮かべて頭を下げた。

「時々、お花を添えてくれているのは、雷紀君?」

小首を傾げて尋ねるその女性に、頷きを返した雷紀は、片手をポケットから出して頬を掻いた。

「この間、アメリカから連れ戻されたから。勝手に追い出した癖に、俺を日本で監視してやがる」
「そう、ね。貴方の家の事情は、難しいから、私も勝手なことは言えないけれど。もう体は、大丈夫?」

困ったように眉尻を下げ、彼女は雷紀に並ぶ。
自然に二人並んで門を潜った。

「ああ、なんとか。禁断症状も軽くはなった。……けど、麻薬絡みの事件に巻き込まれそうになってる」
「もう、手を出しては駄目よ? 息子を喪って悲しむのは、私だけで十分だわ。でも、ごめんなさいね。息子のせいで貴方にも苦労を掛けたわ」

会話を続けながら、入って左に設置された水道に向かう。
水道の横に置かれた棚からバケツを取り出し、蛇口の下に置けば、其れを捻る。
じゃああぁぁ、と勢いよく水が汲まれていくのをしゃがみ込んで彼女は見ていた。
雷紀は、それを後ろから眺めていた。

「なあ、先生。親友を麻薬中毒で亡くした奴がいて、そいつは、心を閉ざしている。放っておいた方が、良いよな。俺は、巻き込まれたくないんだ」
「その子、苦しんでいるんでしょ? 貴方なら、解ってあげられるんじゃないの? あまり無理は良くないけれど、出来うる限り力になってあげたら? 私は、何の力にもなれなかった。すごく後悔、したの。解るって、素敵なことよ。誰にでも理解出来る訳じゃないんだもの」

しゃがみ込んだ状態で、彼女は雷紀を見上げた。
煩く聞こえる放水の音の中で、不思議と彼女の声は凜として響いた。

「先生が後悔することなんか、ないだろ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

聖也と千尋の深い事情

フロイライン
BL
中学二年の奥田聖也と一条千尋はクラス替えで同じ組になる。 取り柄もなく凡庸な聖也と、イケメンで勉強もスポーツも出来て女子にモテモテの千尋という、まさに対照的な二人だったが、何故か気が合い、あっという間に仲良しになるが…

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

水泳部合宿

RIKUTO
BL
とある田舎の高校にかよう目立たない男子高校生は、快活な水泳部員に半ば強引に合宿に参加する。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

処理中です...