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序章:プロローグ
プロローグ
しおりを挟む【プロローグ】
窓を締め切ったその部屋は、カーテンで光を遮られ、外界から隔離するように存在していた。
部屋の主の望み通りに、世間とは交わらない場所だ。
和泉原 真哉(イズミハラ シンヤ)は、本来ならば高校一年生である。
中高一貫校に通う彼は、中学三年の10月頃から引きこもっていたが、エスカレーター式である特権か、高校にも進むことが出来た。
実際には、高校に入ってから一度も登校してはいない。
それでも、彼の両親からしてみれば、名前だけでも在学していることは、僅かな希望であっただろう。
真っ暗な部屋の中では、勉強机に置かれたノートパソコンだけが明かりを放っていた。
真哉はパソコンの前に座っている。
寝間着姿だ。
生気の感じられぬ眼(まなこ)がディスプレイに向かう。
白く細い指がキーボードを叩いている。
椅子の上で、膝を抱えて体育座りをしている。
足裏が椅子に乗っかっていた。
掲示板のような画面が映し出されている。
其処には、真哉の通う学校の、黒い噂が数多書き込まれていた。
所謂、裏サイトと呼ばれる場所だ。
一つには、校長が女性職員に手を出している、だとか。
あの先生は、援助交際をしている、だとか。
職員の性に関する噂。
一つには、学校の運営費は、表立て出来ない裏金である、だとか。
そのお金はとあるお偉いさんから回ってくる、だとか。
学校の運営に関する噂。
そして、最後に。
職員、生徒会、学校組織全体が、麻薬を斡旋している、だとか。
生徒や学校外の人間にも麻薬を売り付けている、だとか。
麻薬で得たお金も運営費に回されている、だとか。
麻薬に関する噂。
この三つが主流となり、後は苛めの問題なども細々と載っていたりするサイトである。
真哉は、軽蔑の眼差しを画面に向け、サイトを閉じた。
代わりに、メールを開く。
ある一通のメールを思案深く見詰め、おもむろにマウスを掴むと、右クリックを押した。
削除、の欄を左クリックで押し、そのメールを削除する。
乱暴に椅子から降りて、ベッドに飛び込む。
俯けで枕を抱き締めた。
忘れてしまいたい。
忘れられない。
何を恨んだら良いのか、解らなかった。
真哉は抱き締めた枕に顔を埋める。
言葉にならない嗚咽を溢し、いつまでも頬を濡らしていた。
まだ彼は、決心が着かないでいた。
闘う勇気もなく、ただただ泣いているのだった。
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