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一章：生命の在り処

憧れと言うよりも依存 01

２.狂った世界で
【憧れと言うよりも依存】


　覚えているのは、轟音の中に響いた悲鳴と衝撃と痛み。
隣の弟の手を、ぎゅう、と握っていた筈だった。
離れないようにはぐれないように、怖くないようにと、あの日の日向 陽向（ヒムカイ ヒナタ）は掌に弟の命を握り締めていた。


＊　＊　＊　＊　＊　＊


　ヒナちゃーん、と呼ばれ「はぁーい」と返事を返す。
声のした部屋を覗くと、靴下どこー、と部屋中をちょこまかと探し回っている少女がいた。

「ミィナ、靴下はタンスの中だよ？　床の上にはないと思うんだけどなあ。ヒナちゃん、仕舞ってね、って言ったけど、仕舞わなかったの？」

笑みを深め扉のところから声を掛ける。
少女の頬が、ぷくん、と膨れた。

「違うもん。ミィナ、ちゃんと仕舞おうとしたけど、その、宿題やってたら」

忘れちゃった、と語尾がすぼんで小さくなる少女の元に歩み寄りしゃがみ込むと、ぎゅう、と抱き締める。

「偉い偉い。ミィナは勉強頑張ってやって疲れて寝ちゃったんだよね。ヒナちゃん、意地悪しちゃってごめんね。靴下は僕が仕舞っておいたから、タンスに入ってるよ」

ふんえ、と情けない声を上げた少女の拳に肩を叩かれた。

「もおっ！　ミィナ、一杯一杯、探したんだよ？　ヒナちゃんのバカ！」

激おこなんだからねっ、と眉を吊り上げる少女に謝りつつも陽向は食堂に足を向ける。
キッチンで人数分の朝食を作っている施設長の奥さん、通称お母さんを手伝い、食事の盛られている皿を食堂のテーブルに運んでいく。


　太陽の家――。
此処は児童養護施設である。
そう大きくもないこじんまりとした少人数制の施設だ。
身寄りのない子供、虐待を受けている子供、家庭環境の悪さで保護されている子供。
様々な問題を抱えた子供が生活している。


　陽向は幼少の頃に家族を亡くし、この施設に預けられ育った。
高校は専門学校にと通い資格を取得し、卒業と共に職員になった。
今では大学に通いながら仕事をこなす毎日を送る。


　ふと先日のことを思い出し溜息が溢れる。
陽向には憧れている人がいた。
哲学者で大学でも教鞭をとっている柞田 己訓（クニタ ミクニ）のことを尊敬してやまない。
彼は『緊急時に於ける臓器移植に関する法律』を批判し、勝手に臓器移植を行われた者の人権を訴えている数少ない人だった。
自分の生を肯定出来ずに『死』を考え、上手く眠ることも出来なかった時期に、己訓の著作に出逢い感銘を受けた。
どれだけ救われたか解らない。
自分と同じように考える人がいる。
ちゃんと自分達のことを考え問題視し訴えてくれる人がいる。
それだけで元気になれた。