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序章:寮長様と小型わんこ
可愛いわんこ 03
しおりを挟む気にした様子もなく答える龍神が眉を顰める。
当時のことを思い出したらしく、がしがし、と乱暴に髪を掻いている。
「堀中も知っているだろ? 佐倉の信奉者に過激な一派がいるのを。そいつ等からの嫌がらせが凄くて、流石の堀内も寮の部屋から出られなくなって大変だったんだよ。それである日、佐倉から兄弟の杯を交わす作法や方法を聞かれてな。次の日には教室内で契を交わしやがった。俺の弟分を泣かす奴は許さない、と凄んだのは見事だった。舎弟に欲しいぐらいだが、彼奴は何処にも属さない方がいい男だからな」
自分の話をしている龍神に見向きもせずに健は一心不乱にご飯を掻き込んでいる。
いつでも騒がしいぐらいの健が黙っているのは珍しい。
否定も肯定もしないと言うことは、あまり話したい内容ではないのだろう。
「そっか。光輝が弟分を作った、って話題になったことしか知らなかったよ。僕には何も言わないからね、彼奴」
付き合いは長いが、光輝という男に関しては未だに謎の方が多い。
コロコロと人格を変える悪癖に加え、カリスマと呼ばれる程の人間でありながら、それを厭うている。
偶像に祀り上げられ群衆の慰め者になるような生き方は嫌だと宣った少年の気持ちなど、努力をすることしか出来ない平凡な人間には一生掛かっても想像すら及ばないのだろう。
和志には彼に掛けるべき言葉が見付からなかったことを覚えている。
「この件は、佐倉にとってかなり衝撃だったようだ。あまり口にしたくはなかったんだろう。……自分のせいで懇意にしている人間が傷付くのは、キツイものだ。彼奴も好きでカリスマなどと騒がれている訳ではないからな。理想に応える義理はなくとも勝手に周りが担ぎ上げるんだ。辛いだろうよ」
生まれた時から極道一家を継ぐ者として生きている龍神には光輝の気持ちが解るのかもしれない。
響が泣き出しそうな顔で龍神を見ていた。
何か言おうと口を開くも、響は首を振り俯いてしまう。
「ヒビっち、どしたの? どっか痛い?」
そんな響の様子を見て健の表情が曇っていく。
勝手に付けられた渾名に双眸を、ぱちくり、と瞬かせた響の口元が柔く笑みを刻む。
「ううん、大丈夫だよ。龍君が僕を庇って怪我をした時のことを思い出して……ちょっとしんみりしちゃった」
首を左右させる響を見て安堵したと破顔する健が龍神を見遣った。
「龍たん、あんまり家族を心配させたらダメだぞ?」
ぷくん、と片頬を膨らませ説教をするように言い募る健に龍神の顔に苦笑が浮かぶ。
「そうだな。だが、俺が庇わなければ響は死んでいた。仕方ない時もある」
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