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序章:寮長様と小型わんこ
嫌いなわんこ 03
しおりを挟むそれを表す最も典型的な例が、寮長という役職だ。
小等部四年から入寮可能な清勝学園の寮は、学年毎に棟が別れている。
そして、一棟ずつに一人ずつ、寮長の職を与えられる。
和志は四年から毎年、寮長の座を任命していた。
周りからも、頭が良いと思われているようだった。
和志は努力を余儀なくされた。
周りのイメージ通りの自分を造る努力を惜しまなかった。
勉強にスポーツ、その他諸々、あらゆることに時間を費やしたのだ。
きっと、健とはまるっきり違う人生だ。
毎日楽しく遊んでいるような、彼とは違うのだ。
光輝と親しいのに、彼はありのままのイメージでぶれたりしない。
光輝の周りを彷徨く人間は、少なからずとも印象を良くしようと頑張っている。
隣に立っても恥ずかしくないように努力をしているのだ。
それなのに、健は違った。
何の努力もなしに、バカ丸出しで、カリスマの隣に平然と存在している。
普段、光輝はファンや親衛隊などを近寄らせないのだが、健だけは何故か許されていた。
彼の隣に立つ努力もなしに、だ。
見ていてイライラした。
自分が愚かに思えて、惨めになるのだった。
* * * * * *
寮替えは毎年4月1日に行われ、始業式は4月5日辺りで行われている。
この日、和志は光輝と並んで歩いていた。
何故か健もいる。
和志と健で光輝を挟む形だ。
健はニコニコと嬉しそうである。
光輝に一生懸命話し掛けていた。
和志は二人の会話を何処か遠くで聞きながら歩く。
「お前等、仲良くやってんの? 和志、コイツ寂しがり屋だから大変だぞ」
不意に光輝に背中を叩かれる。
「なっ、大変じゃないよ! 寂しいのは誰だって嫌じゃん」
えーっ、と叫ぶ健を他所に光輝は下から顔を覗き込んできた。
全てを見透かしているような瞳に見えた。
光輝はにっ、と口端を吊り上げる。
「俺の弟分、あんま苛めんなよ。ガキは少し大人になれ」
「佐倉の兄ちゃん! 俺達まだ子供!」
「気持ちの上で、だ。ガキはガキなりに、成長しろよってこと。和志は、ガキの良いとこも見てやれ。お前なら出来るだろ」
くはは、と笑い声を上げ、和志から離れた光輝は、健の首に腕を回した。
健はバランスを崩しヨタヨタとしつつも、どうにか持ちこたえたようだ。
光輝が頭を撫でている。
なんだろうか。
ちくり、と胸が痛んだ。
あの小さな小型犬のような生き物は、誰にでも好かれる。
この数日、和志にも好かれようと、素っ気ない和志にめげもせずに向かってきた。
うざったいと感じながらも、ほんの僅かに、嬉しかった。
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