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序章:寮長様と小型わんこ
嫌いなわんこ 02
しおりを挟む感情を籠めないで言い放ち、健の腕を振り払う。
健は暫く自分の手を見詰め、今にも泣き出しそうな顔をした。
瞳が潤んでいる。
まるで和志が苛めたようだ。
「ごめ、ん。俺、はしゃぎ過ぎだったな。嬉しくって、つい。堀中のこと、考えてなかった」
しゅん、と肩を落とす健に、胸がザワリとざわついた。
しかし、なんと言う感情なのか見当も付かない。
「いや、僕も言い過ぎたね。悪かったよ」
恐る恐る、健の頭に手を置いた。
柔らかい髪が、手に絡む。
小さな頭で、すっぽりと手中に収まってしまう。
得体の知れない感情に襲われる。
ざわざわと胸が五月蝿い。
「ん。仕事、手伝えることあったら言ってな。事務作業ぐらいなら、頑張るし。じゃあ、また後で」
上目遣いで告げて健は去って行った。
ばたん、と扉が閉まる。
* * * * * *
和志は、この学園の理事長を叔父に持ち、幼少からしっかりしようと頑張ってきた。
叔父の恥にならぬよう、足を引っ張らぬよう、心掛けていた。
従兄弟の佐原 司(サハラ ツカサ)も似たような立場ではあるが、司の場合、元々母親が堀中家の人間で、嫁いで姓も変わったため、そこまでの意識はないようである。
反対に、姉妹校の女子校、清和学園に通う従妹は、清勝学園の理事長の娘という肩書きを理解しているようで、絵に描いたようなお嬢様である。
容姿も童話から飛び出してきたのでは、と疑いたくなる程にお姫様染みている。
要するに美人なのだ。
真っ黒な髪は肩を少し越す辺りまで真っ直ぐに伸びており、髪と同色の大きな瞳は、ぱっちりと二重だ。
睫毛も長く、瞬きをする度に上下に揺れる。
すっ、と通った鼻筋に、ふっくらとした唇を持つ。
彼女は昔から可愛らしかったが、その実、中身はぶっ飛んでいた。
何処か光輝に通じるものがあった。
そう、二歳年下の従妹、堀中 理呼(ホリナカ リコ)もまた、学校ではカリスマとして扱われているようなのだ。
中身はただの腐女子である。
いや、「ただの」ではない。
いきすぎた腐女子だ。
光輝は、自分の人格破綻を、バランスを取るためには必要不可欠と称している。
理呼のいきすぎた腐女子も、バランスを取るためなのか。
何れにせよ、カリスマの考えることなど、和志には理解出来ないだろう。
理解出来たならば、その時点でカリスマになれている筈である。
そう和志は、昔からカリスマに囲まれていた。
理事長の叔父、カリスマの従妹、学校ではカリスマの光輝と親しかった。
それだから、周りから勘違いされるのだ。
凡人の和志も出来る人間である、と。
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