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一章:男性保育士奮闘記
男性保育士と働くお父さん 13
しおりを挟むそれでも僕は、結杜を冷たい人だとは思わなかった。
きっと表現するのが苦手な人なのだろう。
無機質にしか見えない結杜ではあるが、ふと見せる雰囲気は柔らかく、彼をひどい人間だとはどうしても思えない。
「後でレシートお渡ししますね。僕、昔から家事は得意なんです。本当は、お節介かな、とか。迷惑になるかな、とか。思ったんですが。その、どうしても放っておけなくて」
モジモジと股の上の掌を遊ばせ、上目で結杜を窺う。
彼の表情が動くことはないが、一度口が開き、また閉じて、漸く言葉を口にする結杜は苦笑を滲ませていた。
「……結希にとって、先生との時間が楽しかったのだと見れば解ります。父親失格な男ですが、そのぐらいのことは解る。それで、マコ先生に頼みたいことがあるんですが」
そこで一旦言葉を区切った結杜の手が口元を押さえ、続きを話すのを躊躇っているようだった。
僕は黙って話の続きを待つ。
「もしご迷惑でないなら、今後も手助けして欲しいなと。勿論、お金は支払いますし、本業に支障のない程度で構いません。……結希の為にも、先生にお願いしたい」
真剣な眼差しを見詰め、にこり、と笑い掛けた。
最初からそのつもりでいたのだ。
何とか頼み込んで食事ぐらいは作りたいと思っていた。
「僕もそれを頼もうと考えていたので良かったです。僕で良ければ是非ともお力になりたいです。ただ、お金は掛かった分を頂ければ十分です。特別に貰うつもりはないです。僕がやりたいだけなので」
飽くまでも、僕自身がやりたいからやる、というスタンスであり、其処に報酬を持ち込むことはしたくない。
表情の動かない顔で暫時凝視される。
目を逸らさずに見詰め合うこと一分程が経ち、結杜の頭が上下した。
「先生がそう仰るなら、希望通りにします。必要な物などあれば別途請求して下さい。至らない父親で申し訳ないが、宜しくお願いします」
深々と頭を下げる結杜に首を傾げる。
この人は周りからの非難を一人で受け止めてきたのだろう、と思い至り悲しくなった。
「持論ですけど。完璧な人間なんていないと思うんです。親だから出来て当たり前だとか、そういう考えは好きじゃないです。親だって一人の人間なんだから、至らなくて当たり前で、至らないからこそ周りと協力して子育てをする。その為の家族です。近所付き合いです。昔では当たり前だったのに、今では何処もかしこも関係が希薄で、他人に頼ることが悪みたいになっていて、僕は凄く悲しいです」
子育ては一人でするものではないのに、彼は一人で背負っているのだ。
思わず結杜の手に掌を重ねていた。
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