11 / 14
一章:男性保育士奮闘記
男性保育士と働くお父さん 10
しおりを挟む1コールで応答になったことから、雄仁がずっと起きていたことを察し、申し訳なさで一杯になる。
『颯介、テメエ! 何処にいやがる! 雄仁殺す気か、ああ!?』
てっきり雄仁の女性を真似た声色に叱られると思っていたのが、実際には雌威のドスの利いた怒声が受話器越しに響き、耳元からスマホを離してしまう。
「わわわ、雌威ちゃん? ごめんね! 雄仁、生きてる?」
どうにも彼女は冷静に話をすることが出来ない人種で、耳に宛てていると鼓膜が壊れそうなのだ。
仕方なくスピーカーにすると、何故か結杜が悩まし気にスマホを見詰めている。
『死にかけてる。お前な、雄仁がどれだけ颯介のこと大事にしてるか、自覚しろや! 俺も寝れなかったじゃねぇか! 誰の許可取って無断外泊なんざしてんだよ!』
許可を取っていないから無断外泊なんだよ、と口を出掛けた言葉は外に出ることなく消えた。
「その声、琴村君か?」
結杜がスマホに向かい話し始めたのだ。
僕は驚きに彼をマジマジと見詰めてしまう。
「あ、あの、藍沢さん。雌威ちゃんのこと知って」
『その声、藍沢部長か?』
るんですか、と続く筈の言葉尻は雌威に掻き消された。
「君はいつでも騒がしいな。……マコ先生の無断外泊に関しては私の責任だ。申し訳なかった」
苦笑と共に前髪を掻き上げる彼に向かい無駄だと解っていながら首を左右させる。
自分が勝手にやったことなのだと主張したが、結杜が何かを言おうとしたタイミングで低い声がスマホから響いてきた。
『……アンタ、誰だよ? 颯介に何もしてないだろうな?』
雄仁の男声を聞くのは久し振りで、びくり、と肩が跳ねてしまう。
彼は些か僕に傾倒し過ぎていて、偶に怖くなる。
もっと僕以外にも目を向けて欲しいと思うが、雄仁を取り巻く環境がそれを許さないことも解っているので、何とも複雑なのだ。
「雄仁。ごめん、心配掛けて。藍沢さんは、僕の保育園に通っている子のお父さんだよ。昨日は僕が勝手にその子のお世話をして、寝落ちしちゃったんだ。本当にごめん」
慌てて説明すると、受話器の向こうから息を吐き出す音が聞こえてくる。
どうやら誤解は解けたようだった。
『そう。それなら良いのよ。でも、颯介。アタシと雌威と一緒にいる限り、安全なんて何処にもないの。アタシも雌威も、颯介に救われたわ。恩人を喪うなんて嫌だもの。こまめに連絡はして頂戴。解っているとは思うけれど』
いつもの女声に戻る雄仁にホッと肩から力を抜く。
雄仁が男に戻るのには慣れていない。
緊張してしまうのは、女の雄仁に慣れているからだろうか。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる