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一章:男性保育士奮闘記
男性保育士と働くお父さん 04
しおりを挟む職員室で佐藤先生と引継ぎをし、軽い雑談を終わらせた頃、碧が入って来た。
彼女ももう上がりの時間だ。
二人で雑談しながら帰り支度をし、用事があると言う彼女は、先に帰って行った。
僕も支度を終わらせ、さあ帰ろうと言う時に、電話が鳴り響く。
先生はみな出払っており職員室には僕しかいない。
デスクの上の電話に手を伸ばした。
「はい、〇〇保育園の真古です」
「私、そちらでお世話になっております、藍沢と申します」
受話器越しに淡々とした平坦な声色が響く。
電話の相手は結希の父親だった。
「いつもお世話になっております。今日、ユウキ君のお迎えは」
「それなんですが、仕事が終わりそうになく、時間までに伺えそうにありません。一人で帰らせて下さい。では」
何時頃になりそうか聞こうとして、一方的に電話を切られてしまう。
プープープー、と鳴る電子音を耳に受話器を元に戻した。
僕は肩掛けバッグを片側から掛け、職員室を出ると結希がいるだろう教室に向かう。
部屋に入ると、真ん中では夜間預かりの子達がご飯を食べていた。
その隅っこで一人積み木で遊んでいる結希に近付いていき、彼の隣にしゃがみ込む。
「ユウキ君。お父さんから電話があって、お仕事忙しくて今日は来れないみたいなんだ」
顔を覗き込むようにして窺えば、結希は無表情でコクリと頷いた。
のっそりと立ち上がりロッカーに向かう結希の後を追う。
「それでさ、もう外も暗いし、マコ先生と一緒に帰らない? 先生もちょうど帰るとこなんだ」
カラーボックスのようなロッカーから黄色い鞄を取り出し肩に掛けている結希の瞳が僕に向けられた。
黄色の帽子を頭に乗せ、彼は考えてから小さく首を左右させる。
「方向、違ったらどうするの? マコ先生、考え無しだね」
「マコ先生のことは気にしなくて良いんだよ。僕がユウキ君を送りたいんだ。ね、ダメかな?」
膝を床に着き、結希の肩に手を置いた。
見詰めながら小首を傾げると、結希の小さな口から溜息が漏れ出す。
「好きにしたら」
「ん、ありがとう。手、繋ごう?」
一人でスタスタと歩いて行こうとする結希の片手を掴み、手を握り込んだ。
暫し黙り込み手を凝視していた結希は諦めたのか首肯を示す。
僕は立ち上がり、玄関に向かった。
一旦手を離し、それぞれに靴を履く
ずい、と無言で差し出される小さな手を手中に収め、二人並んで歩き始めた、
* * * * * *
保育園を出てから結希に尋ねたところ、バスに乗って10分程、其処から歩いて5分程で家に着くと言う。
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