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一章:傲慢王子は呪われ奴隷を飼う
付き纏う王子 10
しおりを挟む何もかもを忘れて溺れてしまいたくて、必死で舌を擦り付ける。
肉同士が絡み、くちゅ、と音が響いた。
泉に降り注ぐ朝日に照らされる中で他人に縋っている。
快楽を強請(ねだ)り、人と交わろうとしている。
心に触れる他人が怖かった。
遠ざけ逃げ惑い、孤独に浸っては独り善がりに満足していたのだろう。
「こわ、し、て」
自分を縛る呪いも何もかも、身動きの取れない雁字搦めな状況を、誰かが壊してくれると言うのなら、眼前の傲慢な男が良かった。
どうせ望んだとて叶わぬのなら、愚かな夢ならば、手を伸ばしてみたくなる。
「何を壊して欲しい?」
離れた唇は互いの唾液に濡れ、艷やかに光って見えた。
シヴァの悪戯な微笑を目に焼き付ける。
「僕を、殺して下さい」
死ねば楽になれるだろうか、と考えたことなら幾度もあった。
自分がいなくなれば、母はもっと楽に生きられる。
叔母家族に迷惑を掛けることもない。
幼い頃から頭の端にこびり着いていた『死』は、実現しないことだと解っていた。
母が何故、自分を殺さなかったのか、答えは最初から知らされている。
「でも、僕が死んでも呪いは消えない。寧ろ、僕の体内から噴き出して、この世界に混迷を齎してしまう。だから母は、どんなに僕が憎くても殺さなかった。殺せなかった。……アンタは僕を、殺してくれる?」
死ね、と泣き叫んだ母の悲痛な訴えが、今でも耳の奥でこだまする。
叩かれた痛みも、詰られた苦しさも、全部すべてが彼女の抱えている辛苦そのものだった。
愛なら要らないのだ。
何処にもないのだから、紛い物など欲しくはない。
憎悪と嫌悪を腹一杯に沈め、カーディチルと迫害され一生を終える。
其処に、温かな愛など不必要でしかない。
メシアにとって、優しく触れる掌は暴力と同じだった。
傲慢に自分勝手に触れてくる男の体温も暴力と近しい筈で、それでも彼から愛などというまやかしは感じない。
ただ其処にある体温が心地良い。
メシアに隷属を求めるだけの男にあるのは、単なる子供じみた独占欲なのか、はたまた物欲なのか、或いは両方を含むものなのだろう。
「お前は死を望むのか」
シヴァの顔に感情は浮かばない。
何を考えているのかメシアには理解出来なかった。
「だって僕は、カーディチルだから。厄災を呼んでしまうから。いない方がいい」
見上げた真っ黒な瞳が笑ったように見えた。
前髪を横に払われ、男の口付けを額に受ける。
「お前は周りのことばかり気にしているな。メシア、お前自身はどう生きたい?」
どうしてこの男はメシアの意思など気にするのだろうか。
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