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一章:傲慢王子は呪われ奴隷を飼う
付き纏う王子 07
しおりを挟む傷付けるのも傷付くのも嫌で、退けてきた他との接触に結局は溺れていく自分が愚かしい。
次から次に溢(あふ)れてくる涙を、シヴァは嘲笑う。
耳輪に舌を這わせてくる男の腕の中で、小さく震えるメシアに囁いてくる。
「泣くほど嫌でも、やめないからな」
やめて欲しいとは思わなかった。
嫌悪でも憎悪でもなく、寂寥感に胸が痛むのだ。
締め付けられて苦しいのは、失いたくないからだ。
深く知って交わってしまえば、もう後戻りは出来ない。
どんなに快楽に溺れることが恐ろしくとも、どんなに
変化していくことが嫌でも、止めることは出来なくなってしまう。
解り切った結末は、メシアに幸せを齎しはしない。
手放すことが辛くならないように、誰をも拒絶してきた筈が、その隙間に音もなく入り込むのだ。
酷い男だと思いはしても、触れ合うことは嫌ではなかった。
解っているのだ。
詰まるところ、それが答えなのだろう。
「シヴァ様」
そっ、と噛み締めて呼んだ名に、どうしようもなく胸の奥が震えた。
感情も映さない真っ黒な瞳が美しい。
どうせ戻れはしないのなら、自ら堕ちていくしか道はないのかもしれない。
「僕を支配したいのなら、好きにすればいい。呪いが解けない限り、僕はこの街に囚われるしかない。それでも僕に触れると言うのなら、貴方は本当に残酷なお人です。奪うだけ奪って、変えるだけ変えて。この牢獄から抜け出せない僕に夢だけ見させる。……悪魔みたいに酷い人ですね」
ふっ、と口元を飾る嘲笑の意味など、青年には解らない。
解って欲しくはなかった。
「僕は、アンタに傅いたりしないよ。シヴァ様のモノにはなれない。大切なもののために、身体を差し出すだけだ。それも、アンタがこの街にいる間だけ。ねえ、何の意味があるの?」
ぽとり、と落ちた涙を男の舌が追う。
頬を辿る肉の感触に吐息が漏れる。
シヴァの顔に手を伸ばし、ほっぺたに触れた。
「お前は意味が欲しいのか? そんなもの、求めたところで虚しいだけだぞ」
目を細める青年の顔を引き寄せ、彼の薄い唇に口を押し付ける。
望んでいる訳ではないと言葉で示しておきながら、自分から舌を伸ばす。
乾いた大人の口唇を舐めると、羞恥を覚える水音がした。
「お前は黙って俺に傅いていればいい」
腰を抱かれ体が浮いたと思った時には、草の上に横たわっていた。
メシアに跨っている男は、苛ついているのか舌打ちが聞こえてくる。
「お前は、俺のモノだ」
大きな掌が頬からこめかみに向かって撫でていく。
その手に擦り寄れたなら幸せなのだろうか。
メシアの首が左右に揺れる。
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