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一章:傲慢王子は呪われ奴隷を飼う
付き纏う王子 06
しおりを挟む「……行くよ」
頬を包む手に掌を重ねて掴み、大きな手を引いて歩き出す。
大人しく着いてくるシヴァに安堵し、メシアは泉まで歩いた。
無言で森を進み、15分程して泉にと到着する。
握っていた大きな手を離し、メシアは徐に纏うボロ布を脱いでいく。
全裸になるのをシヴァに見られているのが心地悪いが、意識して気にしないように男の姿を視界に入れない。
それだから、青年の不穏な動きに気付かなかった。
全裸になった途端に、片腕を取られ引っ張られる。
ぼすん、とシヴァの胸に倒れ込み、非難がましく男を睨む。
「あっ、あぶな、い」
「黙って」
見上げた先には無表情の顔がすぐ傍にあり、息を呑んでいた。
メシアのほっそりとした顔に青年の髪が掛かる。
吐息が唇に触れ、皮膚と皮膚がぶつかりそうで接触しない距離で見詰められる。
何も感情を映し出さない漆黒の瞳がメシアの胸を掻き立てる。
ざわざわ、と落ち着かない感覚が苦しくて、ぎゅむ、と瞼を閉ざした。
「メシア」
不意に今更のように恐怖がやってくる。
ひしひし、と足の爪先から頭の天辺までをゆっくりと這い上がってきた不安に「こわい」と零していた。
内側からじわじわと焼かれていくように、徐々にメシアの内を恐れが満たしていく。
「何が怖い? もうずっと触れてるだろ? もっと深く交われば、お前は俺を受け入れるのか?」
きっと恐ろしいのは、今にも喰らいついてきそうな男ではなく、彼を求めてしまう自分自身の変化に対してなのだ。
「もっ、これ以上、入って来ないでよ。僕に、さ、さわ、っ、触らない、で。こわい」
ふるり、と首を横に振り、抱き締めてくる腕を振り払おうと身を捩る。
触れていたいと思うことも、温もりを手放すことも、何方を選ぶことも怖かった。
「メシア」
抵抗しても無駄だと解っていても、拒絶してきた他人が入り込んでくる気持ち悪さに動かずにはいられない。
向きを変え逃げを打つ体躯を後ろから抱き込まれ、乱暴に顎を掴まれる。
ぐい、と首が回り顔だけが後ろを向く。
「今日もたっぷり教えてやるよ。体で怖くないことを覚えろ」
これから何をされるのか解っている。
逃げられないことも知っていた。
物理的にも、精神的にも、目の前の男に絡め取られて身動きが取れない。
ただ悲しくて寂しくて、心臓が凍えてしまいそうだった。
永遠に繋ぎ止めておけない物を望んだら、失ってしまうのだ。
掴んだ瞬間に掌から零れ落ちていく。
誰かと過ごす未来など有り得ないメシアに与えられた温もりは、まるで凶器だった。
柔らかなところを切り付けていく。
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