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一章:傲慢王子は呪われ奴隷を飼う
付き纏う王子 03
しおりを挟む「だ、だいじょ、ぶ、だから。トモ君、水浴びしたら戻る、よ」
不安そうな顔でシヴァの後を追い掛けて来るトモユキにぎこちない微笑みを向ける。
いつも見上げているトモユキの顔が近くに見えて違和感を覚えた。
「でもメシア。お前、震えてるじゃないか。王子、彼は」
「どいつもこいつも過保護だな。メシアが大丈夫だって言ってんだ。それが全てだろ?」
舌を打ち台詞を遮ったシヴァは止まることなく制止するトモユキを振り払い奴隷小屋を後にした。
* * * * * *
奴隷小屋からカースレストに向かうシヴァの肩の上でメシアは泣きそうだった。
もう会いたくないとすら思った男の存在が胸を覆い尽くす。
どうしても放ってはおいてくれず、抗う術もメシアにはないのだ。
権力に屈するしかない自分が嫌で、それ以上にシヴァに触れていることを何処かで喜んでいる自分が一番嫌だった。
「逃げ、逃げない、から。降ろして」
やっとのことで捻り出した言葉は無視されてしまう。
もう森は目の前に迫っていた。
メシアがいるので木々が拒むことはないが、シヴァの意思で泉に辿り着くのは難しいだろう。
カースレストに道はなく、ゴッドマーシュの者の足が向く先に木々は道を作る。
森の全体図が潜在意識に刻まれているゴッドマーシュの者でなければ、忽(たちま)ちに遭難してしまうのだ。
木々を切り倒して無理に入り込もうとしても余所者は排除されてしまうのだと言う。
切っても切っても次々に木々が繁殖し、森に危害を加えた者は呑み込まれてしまうのだと聞いた。
普通の森とは違うのがカースレストなのである。
「王子。……お、願い。森に入る前に、降ろして。自分の足で歩かないと道が解らない。迷うと僕でも場所を把握するのが大変になるから」
震える手でシヴァの豪奢な服の背中部分を掴み引っ張った。
地に足を着けていないと森の意思を感じられない。
それがメシアに恐怖を与えるのだ。
ゴッドマーシュの血を有していても、絶対的にカースレストから守られるとは限らなかった。
幼い頃にソーマと悪戯をして森に閉じ込められた時の恐怖は今でも覚えている。
意思のある森を敵にまわすことの恐ろしさが身にしみてメシアを苛む。
「……俺のモノになるなら降ろしてやってもいいぞ」
暫時、沈黙の中でメシアは唇を噛み締めた。
うううう、と唸り首を左右させ、ごんごん、と前頭部でシヴァの肩甲骨辺りを叩く。
「道に迷って困るのは僕じゃなくて王子だろ。アンタのモノにはなれないけど、自分で歩きたい」
「我儘な奴だな。……まあいい。ちゃんと案内しろよ?」
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