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一章:傲慢王子は呪われ奴隷を飼う
奴隷と水浴び 09
しおりを挟むふとメシアの足が止まる。
カースレストの入口、木々がみっしりと密集したその前に、背の高い男が立っている。
メシアの口からは溜息が溢れ落ちた。
遠回りして泉に向かおうかと思考を重ねている内に、男が動き始め、メシアに向かい歩いて来る。
どうやら見付かってしまったようで逃げ場を失い、立ち尽くした。
「仕事は終わったのか?」
目の前まで迫る漆黒の王子。
噂で聞いた名前は、シヴァ=バンフェンシー。
此処、カピルタ王国の第二王子で、恐ろしい容姿につけられた渾名が「殺し屋」だと言う。
妾の子で王宮に入ったのは10年程前のこと。
母親は豪商の娘で、シヴァ自身金持ちのボンボンらしい。
ギーチにそれとなく聞いたシヴァの情報だ。
「迷惑だと言った筈なんだけど。お金持ちのボンボンって、そんなに暇なの?」
軽蔑を籠めて睨み付けるも、吐息で笑われてしまう。
愉快そうに歪められた口端は上向いていた。
はじめて見た彼の感情らしい僅かな変化に目を見開く。
息を呑んでシヴァを凝視していた。
「俺のことを調べたのか? 昼間は何も知らないようだったが」
両目を細めて見詰め返してくる様は、嬉しそうに見えてしまいメシアを戸惑わせる。
ふるふる、と首を左右させ彼から目を逸した。
「勘違いするな。別に調べたとかじゃない。噂を聞いただけだよ」
そっ、と伸びてきたシヴァの手を叩き落とし、前に進んで行く。
後ろを着いて来る気配に恐怖心が胸を支配していた。
「そう。また泉に行くのか?」
問い掛けに無視したまま木々に突っ込んで行くと、スルスル、と道が開かれる。
「着いて来ないで。僕に構わないでよ。この森は神聖なんだ。余所者は出てけ」
森の中まで追って来るシヴァに振り返り、意識的に出した低い声で宣った。
「神聖? 呪いの森、がか? お前は、魔女を愛する森、に随分と好かれているようだな。魔女はこの世界から姿を消したとされているが。末裔がいてもおかしくはない。お前が何者なのか、まだ疑惑が晴れた訳でもない。俺にはお前を監視する理由がある。……納得したら大人しく俺に見張られていろ」
ふん、と鼻で嗤う男に言葉を失う。
彼は馬鹿ではないようだ。
メシアが導いた答えと同じところに辿り着いているのなら、下手に抵抗するのは却って疑惑を深めるだけだろう。
何にしても、街の中でアツコが魔女ではないかとの噂は昔から絶えずに存在している。
その息子であるメシアに疑惑が向くのも当然のことなのだ。
「わかっ、た。好きにすればいい」
メシアに残された選択肢は、疑惑が晴れるまで男の視線に堪えることだけだった。
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