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終章:おまけ
史壱君と神流
しおりを挟む【史壱君と神流】
誰かが階段を降りて来る。
靴箱から教室に向かう階段の前に立っている宅福 史壱(ヤカネ フミイチ)の耳に、かつかつ、と靴を鳴らす音が聞こえてきた。
史壱が懇意にしていた後輩、宮原 神流(ミヤハラ カンナ)が、史壱の親友である夏木 羽李(ナツキ ウリ)と話をしている筈であり、無事に終わったのだろうかと階段を見上げる。
暫くしない内に、足音の主は史壱の前に姿を現した。
案の定、神流であったことに安堵し、自然と笑みが溢れる。
「やあ、宮原。話は出来た?」
神流の表情がとてもにこやかで、どことなくウキウキしているような、浮かれているような、そんな楽しそうな雰囲気を感じ取り、史壱は迷うことなく問い掛けた。
「いえ。先輩、寝てしまっていて。起こすのも可哀想だったので、やめました」
だが、返ってきたのは予想外の答えで、史壱はあんぐりと口を開けてしまう。
最後の段を降りて隣にやって来た神流を窺えば、彼は照れたように目を伏せた。
どういった反応なのか解らずに、ただただ神流を見詰めてしまう。
「良かった、の?」
何とかそれだけを問えば、彼は静かに首肯した。
「きっと、今はこれが正解なんだと、思うんです。でも、諦めた訳ではなくて。そのことで、先輩に折りいった相談があるんですが」
ふふ、と神流が含み笑いを浮かべる。
この後輩がこういった笑い方をする時、何故だかとても恐ろしくなる。
史壱は目を瞬かせて、首を傾げた。
聞いても大丈夫なお願いなのか、不安になる。
「僕に出来ること?」
「はい。ただ、羽李先輩の動向を教えて貰いたい、それだけです。勿論、先輩の解る範囲で構いませんので」
そういうことか、と合点がいった。
頃合いを見計らい、アクションを起こすのだろう。
危ないお願いではなかったことに安心して、確認するのも野暮かと何も聞かずに頷く。
「そのぐらいなら、いいよ。いつものメアドに送ればいい?」
嬉しくなり双眸を眇める。
羽李は大事な親友であり、神流は可愛い後輩だ。
二人が上手くいけばいいと、ずっと思っていた。
神流が羽李を諦めないのなら、自分は変わらずに応援するのみだ。
「はい、お願いします。また連絡しますね。それでは」
神流の目も細まり、安堵したのか、ほっと息を吐き出している。
そのまま彼は頭を下げて去って行った。
「しかし、羽李も罪な奴だなあ」
叱ってやらなくては、と嬉々として階段を上がって行くのだった。
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