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三章:恋心抱く秋
さん
しおりを挟む目を伏せた神流は沈黙のまま首肯する。
「すいません。見るつもりも聞くつもりもなかったのですが。でも、安心して下さい。僕の委員長に対する尊敬の念は変わりませんし、言いふらす気もありません。それに……」
徐(おもむろ)に目蓋を開いた神流は、真っ直ぐに史壱を見据える。
最後、言い淀むと左右に首を振り苦笑を零した。
忘れて下さい、と小さく付け足して前を向く。
「ありがとう、宮原。だけど、僕と彼は恋人でもないし、変に気を使ってくれなくても大丈夫だよ。まあ、男と付き合ってはいるんだけど」
困ったように笑いカミングアウトする史壱は、神流の背中を見詰めていた。
史壱には何となく解っていたのだ。
神流の羽李に対する想いに気付いていた。
言い掛けて出てこなかった神流の言葉も察しているようだった。
「そう、なんですね。委員長が同性愛者であることは、特段驚きもしないんです。そういう嗜好が世の中には存在していて、それを否定する権利は僕にはありませんし。ただ、僕は違うと思っていたんです。それが、見ても不快に感じなかった。一番ショックなのは、浮かんだのが夏木先輩だったことで。同じことを彼にしたいと、思ったんです。僕、同性愛者なんですかね?」
弁当箱の入った手提げ袋を手に、神流は史壱の元まで緩慢な動きで歩んでいく。
一抹の不安を抱いていた。
同性愛者ならばそれはそれで構わない。
自分の状況が解らないことに、神流は不安を感じているのだ。
「うん、やっぱり宮原は、羽李のこと好きなんだね。でもさ、同性愛者とかって難しく考えなくても良いと思うんだ。多分、羽李だから好きになったんだよ。人間性に惚れたんだと思った方が楽じゃないかな? 僕はそう思ってる」
優しい笑みが史壱の顔に浮かぶ。
その言葉に気持ちが軽くなったように神流は感じた。
「確かに、そう考えると簡単なことですね。性別で人を好きになるのではなくて、人間性で人を好きになる。それは素敵な考えかもしれません。僕は、夏木先輩のことが好きなんですね。目が離せなくなるのも、傍にいたいと思うのも、好きだから。きっと、そういうことなんです」
今までもやもやとしていた気持ちに名前が付いたことに、神流は安堵した。
例えば、自然(植物)と触れ合う楽しさを覚えた時のような安心感だ。
知らない感情には触れたくはない。
怖いからである。
抱いたことのない気持ちには蓋をする癖が神流にはあった。
其れであれ、未知の感情に名前が付き、定義付けされてしまえば簡単なことなのだ。
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