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二章:悲劇の日から
記憶に取り残された幼馴染 04
しおりを挟むきょとん、とクロのタレ目が戸惑いを伝えてくる。
ボクは何食わぬ顔で頷いた。
「小学生の時のだよ。覚えていないのなら、別に良いのだけどね」
沈黙が暫く続き、クロは俯いて考え込んでいる。
予感は的中したのだろう。
きっとクロは、父親からの強姦も、今日の複数人による強姦も、覚えていないのだ。
「ごめんね、サン君。覚えて、ないよ。思い出せない」
悲壮な顔で謝るクロが、堪らなく愛しく思えた。
強く掻き抱いて、でろでろに甘やかして、ボクだけを求めて欲しい。
ボクだけがクロを救えるのだと、そう思って欲しかった。
自然と腕が伸びて、クロへと向かう。
駄目だ、と理性が働いて、辛うじて彼の髪を撫でるに留まった。
「確認したいことがあっただけだから。気にしないでくれたまえよ」
訳の解らない罪悪感が胸を覆い、クロを見るのが辛い。
クロのふわりとした髪から手を離した。
彼は、こくりと頷いて、安心したのだろう、笑顔を覗かせる。
「ところで、何で僕、サン君のお家にいるの?」
返答に困る問い掛けを、平気で投げ掛けてくる彼は、ボクの苦悩など一生掛けても解らないのだろう。
溜息を大袈裟に吐き出した。
「貧血を起こして倒れているのを、このボクが、直々に運んだんだ。それにしても君ね、ちゃんと食事は摂っているのかい? 軽すぎるよ」
口から出任せにしては、スルスルと言葉が出てくる。
施設に運ばなかった理由は聞かないでくれ、と信仰もしていない神に都合良く祈った。
「そう、だったの? ごめんよ。照須、さん? にも悪いことしちゃったね。今度謝らなくちゃ」
素直に話を受け取るクロに安堵したのも束の間、同級生への怒りが蘇り、どうにもやり場のない激情に襲われる。
「あの男には、二度と会わないでくれ。いいね? 約束だよ」
だんっ、とベッドの縁を叩き付けた後、驚きにタレ目を見開くクロの肩を掴んだ。
耳元に顔を寄せ囁くように告げる。
いつもよりも低い声になったのは、ユエへの怒りが収まらなかったからである。
それでも、クロは自分が何かしたと勘違いしたのだろう、頻りに謝りながら何度も首肯する。
その様は壊れた玩具のようで、笑いを誘った。
「解ってくれたなら、いいんだ。そろそろ帰る?」
「え? ……あ、そう、だよね。帰らなきゃ、ダメ、だよね?」
怒りの感情も削がれて、自然と上がった口角をそのままに問い掛けた。
出来れば両親が帰ってくる前には帰したかったのだ。
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