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二章:悲劇の日から
精神科と睡眠科 05
しおりを挟む教授との間に何かあったのだろうと推測出来ても、僕にはどうすることも出来なかった。
二人で話をしようにも、サンの帰りは遅く、僕は僕で仕事を抱えている。
どうにもすれ違う日々が続いていた。
そんなある日のことだ。
珍しく二人の時間が合った。
かと言って、何か特別なことがある訳でもなく、本当にたまたま同じ日に休みが入っただけのことだった。
それでも、真相を知りたいと思っていた僕には、やっと訪れた二人の時間だ。
意を決してサンの部屋の扉をノックする。
間を空けて、気怠げな声が響いた。
「どうぞ」
サンの声を聞けてホッとした。
追い返されることも想定に入れていたのだ。
「つ、疲れてるのに、ごめ、ごめんね」
恐る恐る中に入れば、サンはベッドの縁に腰掛けていた。
眼鏡を外すとベッドサイドに、ゆっくりと置く。
怒っているのか、表情は険しい。
眉間に皺が寄っている。
「うん、手短に頼むよ」
普段、頼んでもいないのに長々と話すサンにしては口数も少なかった。
おずおずと彼の隣に腰を下ろす。
ベッドの布団が沈んで、また元に戻った。
ぎしり、と鳴る音を聞いてから、サンを見詰める。
「あの、サン君。……精神科」
「その話はしないでくれたまえよ。もう決めたんだ。就職することにした」
首を何度も左右に揺らすサンの姿は、うんざりだと体現していた。
そして、淡々と言い切り、彼の顔は伏せられてしまう。
僕は無意識の内に彼の腕を掴んでいた。
「まっ、待って、くれよ。どう、どうして? 医者に」
「だから、無駄なんだよ! ボクでは君を救えない。どうしたって、君は……」
掴んだ腕が乱暴に振り払われた。
悔しそうに叫んだ後、彼は口を閉ざし唇を噛み締めていた。
僕に原因があるような気がしても、心当たりもなく、どうしたら良いのか解らない。
「ぼ、ぼぼぼ、僕の、せい?」
やっとのことで絞り出せた言葉は、何とも子供のようだった。
悲しみを堪えるように、サンの目蓋が綴じる。
僅かに否定の動きを見せる彼の頭に、力は入っていなかった。
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「サン君は、守ってくれているよ? 辞めるなんて」
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